上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「お待たせしました」
先程の女性定員ができたての料理を運んで来てくれる。考えてみれば俺も昨日から大したものを口にしていない。目の前のハンバーグの匂いが余計に腹すかせるようだ。
「いただきましょう」
藤井社長は両手を合わせていただきますと言ってハンバーグに手をつけ始め俺もそれに続いて食べ始めた。
「実は母の担当の先生に母は記憶をなくしている可能性があるかもと言われました。脳の場合そういったことは良くあることらしいのですが、記憶をなくした場合その記憶が戻るかどうかは個人差があるということでした」
こんな時なんて言えばいいのか分からずに俺はただ頷くことしかできない。
「問題は亜子なんです。母の症状のリスクを聞いて相当落ち込んでしまいまして……父も私も見ていられない状態なんです」
藤井社長から亜子の様子を聞くたびに落ち込んでいる状態が想像できてどうしようもない気持ちが胸を締め付ける。
そんな俺の様子を確かめるように藤井社長はいきなり核心をついてきた。
「失礼ですが結城さんは亜子とどういった関係ですか? 誤解でしたらすみません。ですがただの上司と部下という感じではないように思います。それに以前ビルの前で目が合ったのは結城さんですよね? 仕事柄人を見る目には自信があります」
突然言われて俺は言葉を失った。だが、ここで嘘をつくのもおかしい。
「すみません、黙っているつもりはなかったのですが結果的にそうなってしまいました。遅れましたが亜子さんとお付き合いさせていただいてます」
そこまで言うと藤井社長は俺に優しく笑いかけ話を続けた。
「いえ、あんな状態の中じゃなにも言えなくて当然ですよ。でもはっきり聞けて安心しました。これから話すことはどうか結城さんの胸の中だけに止めておいてください」
藤井社長はナイフとフォークを皿の上に置いてゆっくりと話し始めた。それは予想もしていないことで俺の知らない亜子の全てがそこにあった。