上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※


「亜子は養子なんです。家族の誰とも血の繋がりはない」

「え……」

唐突な藤井社長の話に思わず息を飲んだ。

「亜子と私は幼馴染なんです。親同士仲が良くてよく一緒に出かけてました。……あの日も家族同士で花見に出かけて帰る途中、亜子を乗せた車が事故に遭ったんです。亜子は奇跡的に助かりましたが、亜子の両親はその時に亡くなりました。今もその時の記憶は戻ってないはずです」

藤井社長の花見という言葉に桜の木の下で泣いた亜子を思い出した。

「亜子の両親は周りの反対を押し切って結婚したようで、親戚とはどこも絶縁状態だったと聞いています。亜子の引き取り手がないのを気の毒に思った私の両親が亜子を養子に迎え入れることにしたのです。私の両親は亜子を本当の娘として可愛がっていました。それはもう息子の私以上にね」

藤井社長は少し笑って遠くを見つめ懐かしんでる様子だったがその顔はすぐに曇り始める。

「……ですが、いつからか亜子は私たちの愛情を受け入れなくなりました。亜子の性格からして遠慮していたのでしょう。血の繋がらない自分がこんなによくしてもらっていいのかと私に相談してきたことがありました。それなりに付き合った男もいたみたいですが、本気で好きになった相手はいなかったようで私たちもずっと心配してたのです」

「……そうですか」

最後の言葉がやけに耳に残る。俺のことも本気ではないのかもしれない……。テーブルの上を見つめる俺に藤井社長は「だけどね」と付け加えた。

「結城さんと出会えたことで亜子は少し変わってきてるんです。あなたとのことで泣いたり悩んだり、普通の事かもしれませんが亜子は今までそういった感情を抑えて生きてきました。愛情を受けるのも与えるのも拒んで生きてきた分辛い思いもしてるようですが、亜子は結城さんのことを本気で好きなんだと思います。どうかこれからも亜子の側にいてあげてください」

頭を下げて頼み込む藤井社長の姿は兄としてずっと亜子を見守っていたのだろう。
亜子の過去を知って、自分のしてきた愚かさがどれだけ傷つけたかと思うと胸が締めつけられそうだった。

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