上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※


「お袋が倒れた次の日、前から話があったお客様と会うことになって仕事に行ったんだ」

そのことは覚えてる。
まだ意識のないお母さんから離れて仕事に行く涼太をどんなに辛いだろうと思っていた。

「そこで会ったのが尊くんだったんだ」

「え?」

「仕事の話はそっちのけで亜子の話をして、まぁ、だいたいはその時にどういう状況か分かった。尊くんは亜子への気持ちを正直に話してくれたよ」

涼太の話を聞きながら振り返ると尊さんは私を見て頷いた。

「最初は亜子をそっとしておいてほしいというのが俺たちの気持ちだったし尊くんにもそう伝えていたんだ。だけど尊くんの亜子に対する想いを感じるうちに応援してあげたくなった。亜子もずっと尊くんを好きだっただろう? 」

「どうして……」

分かるの?
誰にも言わないで抑えてきたのに……。

「家族なんだからそれくらい見てて分かるさ」

お父さんとお母さんも涼太の話にうんうんと頷いて私に笑顔を向けている。
私は泣きそうな気持ちをグッと堪えて家族と尊さんに「ありがとう」と言った。


「これで東京のマンションも解約だな」

「え? どうして? だってあそこは涼太が東京へ行く時使うって言ってたのに」

「そんなわけないだろ! あれは口実だよ。亜子がまた東京へ戻った時の為にそのままにしといたんだよ」

そんなのいつになるか分からないし、第一戻るつもりなかったのに……。

「……もったいない」

「お前が言うな。いいんだよ、亜子はうちの姫様だからな」

涼太の砕けたセリフにみんなが笑う。
その姿を見て自然と私も笑っていた。


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