上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
[番外編] 愛する人のために 〜尊side〜



2年前、いつものバーで智史が来るのを待っていた。お互い30も近くなるとそれなりに仕事も忙しくなかなか会えずにいるが、こうやって時々会っては身のない話をよくしていた。


「おい、元気出せよ! 次はもっといい女紹介するからさ!」

カウンターに座っている俺の後方、テーブル席にいる連中がその中の1人に言ってるのが聞こえた。
どうやら女に振られたらしい。

テーブルにうずくまって……泣いてるのか?
アホらしい。


「尊くん、後ろうるさくてごめんよ」

マスターが小声で俺に言ってくる。

「いや、構いませんよ」

本当は早くどこかに行ってほしいがマスターに罪はない。俺は軽く笑ってビールをもう一杯頼む。

マスターがビールを持ってくる頃には後ろからついに男の泣き声が聞こえてきた。

バカか?
女ごときで何泣いてんだよ。


その頃の俺は、女に溺れる男なんてクソだと思ってた。
男とは仕事が第一優先であると信じて疑わなかった。
今時じゃない、古い考えと言われればそうかもしれないが、大抵世の中の男は口では家庭が一番だの言ってても結局は仕事が生き甲斐ってもんだと思ってたんだ。


亜子に惹かれるまでは……。
まさか自分が後ろにいるヘタレ野郎と同じ生き物になるとは思いもよらなかった。


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