上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
1年前、亜子の母親が倒れてから亜子は東京の会社を辞めてしまった。
俺がちょうど出張中でいないうちに亜子は辞表を出して挨拶に来たらしい。
数日後、出張先から戻ると、同僚の長谷川から「亜子から手紙を預かっている」と言って一通の封筒を受け取った。
手紙には藤井社長から聞かされた内容とほぼ同じことが書いてあった。
知らなかったことと言えば、俺と付き合った理由が俺には他に好きな人がいたからだと書いてあった。
深入りせずに軽く付き合う為だったと。そういう付き合いしかできないんだと書いてあった。
ここまで読んだ時のあの思いは忘れられない。奈落の底に突き落とされて、少しの光も見つけることができないと諦めに近い絶望感を……。
だがその続きにはこうあった。
“ 初めて本気で好きになれた人だった ”と。
本当は亜子が会社に来る前日に藤井社長から連絡があり、会社を辞めて実家に戻ることを聞いていた。
藤井社長とは仕事の件で何度か話をしてたけれど相変わらず首を縦に降ることはなく惨敗に終わっていたが、亜子の様子は必ず教えてくれていた。
亜子の手紙を読んで、俺はあの日から毎週長野に通うことを決めた。
会うことはしないと決め、ただ遠くから見守る為に。
長野に行く時間を作る為に、いつもギリギリまで仕事をした。
帰りが日にちをまたぐのもあたり前のようになり、俺の体力も限界に近くなる。
だがなぜか長野に行く日の朝はスッキリ起きることができた。
ロクに睡眠を取ってないせいか、体は日々重くなるのに、その日になるとどういうわけか疲れを感じない。