上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※

「だけど、ここのインテリアは違う気がするんです。うまく言えないんですがフロアーのインテリアを見てるとそう思うと言うか……。ここにずっといたいと思う気持ちや温かい気持ちになるんです……」

話が纏まらない中正直に話すがこれじゃ駄目だろう。

「ふふっ。お父さん聞こえたかしら?」

「あぁ……まあな」

上手く話せず気落ちする俺に亜子の両親は何か話してるようだった。
そして少ししてから亜子の父親は静かに話し出した。

「……ずっといたい……温かい、か。亜子も同じことを言っていたんだ」

やや上の方を見ながら亜子の父親は懐かしいといった顔をして言った。

「まだ亜子が私たちの養子になって間もない頃だったかな。工房に遊びに来た時に言ってたんだ」

“ お父さんの作るものみんな好き! 私ずっとここにいたいな。だってここが温かくなるの ”


「そう言って、胸のあたりに手を置いてよく私に言ってたよ。私たちはお客様にも亜子と同じようにそう思ってほしくて、それを理念としてやってきたんだ。大量受注はどうしてもその気持ちを優先することができないんじゃないかと思ってた……。だけどそれはもう古い考えなのかもしれないね」

「えっ?」

やはり難しいかと諦めかけた時だった。亜子の父親は固い表情をわずかに崩しながら話を続けた。

「期限が短い場合は難しいが、ある程度時間があれば一つ一つ気持ちを込めて作れないわけじゃない。実際に君と話してみて思ったんだ」

そこまで言うと亜子の父親は、一度下を見て深呼吸をしてからもう一度俺を見た。

「仕事を受けようと思う。それから亜子のことも頼みたい」


最後の言葉は思いがけないセリフだった……。

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