上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
その後亜子の両親には、あらためて俺の方から亜子とのことを認めてもらう形で話をした。
「騙すようなことをして悪かったね」
食事を済ませ喫茶店を出てから藤井社長は車の中で俺に謝った。
「いえ、お礼を言わなきゃいけないのは私の方です。本当にありがとうございます。それに亜子のことも……」
「実は私も父が最後まで何て言うのか分からなかったんだよ。でも尊くんのことは絶対に気にいると思っていたけどね」
藤井社長が笑って話す中、運転手の佐山さんが「着きましたよ」といって車を横付けする。
俺は車から出て近くの木の後ろに立ち尽くし向こう側を見つめる。
視線の先には亜子が務める事務所があるのだ。
窓の奥に亜子の姿が見える……。
ずっと見ていたい。
自然と笑みが出てしまう。
「本当に呼ばなくていいの?」
藤井社長は俺の近くまで来て言った。
「まだ今は会わないと決めてるんで」
本当は会いたい。
もう二度と離れないようにずっと抱きしめていたい。
だが今の俺じゃ駄目だ。
迎えに行くのは、もっとしっかりした男になってからと決めたんだ。
その後も毎週長野に来ては、亜子の姿を見て帰るといったことを繰り返していた。
ある時、亜子の母親と会った際にいくつかの椅子や棚といったインテリアのデザイン画を見せてもらったことがあった。
そのデザイン画は鉛筆でデッサンされていて、色付けもしていない下書きに近いものだった。
「尊くん、これどう思う?」
「え……いや、これどうされたんですか?」
俺が驚くのも無理がない。
なぜなら新しく建てるホテルのコンセプトをたった今話したばかりなのに、目の前にあるデッサンのほとんどがまさにその通りに描かれていたからだ。