上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
パソコンの電源を落としデスクの上を片付けながら桐生にお礼を言う。
「今度藤井の奢りな!」
子犬系男子の桐生はニコッと笑っていた。
せっかくだからと桐生が買ってきてくれたコンビニのお弁当をその場で食べて、私達は会社を出た。
たわいもない話をしながら駅まで2人で歩いていると桐生は突然話を変えてきた。
「藤井って今誰かと付き合っているの?」
「別にいないけど?」
並んで歩く桐生を無視するように私は前を見ながら嘘をつく。
遅い時間もあってか昼間の人通りの多さとは違って数人すれ違う程度。
いつも通ってる道なのに全く違う道を歩いているよう。
チラッと桐生を見ると目が合って「ふーん」と頷きそれ以上は聞いてこなかった。
お互い自宅の方向が違う為、私は改札口を通ってから「またね」と言って電車がくるホームに向かおうとしたがすぐに桐生に呼び止められた。
「藤井さ、付き合ってないにしても色々言ってくるヤツはいるんだから気をつけろよ!」
何のこと?首を傾けて桐生を見ると溜息を一つついて教えてくれた。
「耳のここ。キスマークついてる」
桐生が人差し指で自分の右耳の裏側を当ててる。
桐生に言われ昨日の結城課長との情事を思い出しカァッと顔が熱くなるのがわかった。
「どんな理由か知らないけど付き合ってないって言っときながらキスマーク付けてるって藤井らしくないんじゃねぇの? しかもそんなとこ付けるなんて牽制以外なんだって言うんだよ?」
桐生はまた大きなため息をついたあと更に続ける。
「俺はさ、あの時藤井にフラれてスッキリ諦めたんだ。 今は俺にとっておまえは大切な仲間だと思ってる。 だから何かあるならちゃんと話せよ」
一方的に言ったあと「じゃあな」と右手をあげてホームへ歩いていく。
桐生の後ろ姿が見えなくなったあとも、私はしばらく動けないままでいた。