上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「ただいま」
誰に言うわけでもなく呟きながら脱いだ靴をきちんと揃える。
リビングに向かい壁際にあるミニチェストの前に行き、そこに立てかけてある木製のフォトフレームの中でにっこり笑っている男女に向かって私も笑顔で言う。
「パパ、 ママ、 ただいま!」
写真の2人に挨拶をしたらそのままバスルームに向かい熱めのシャワーを頭からかぶる。
曇った鏡を手でなぞりそこに映る裸の自分を見つめた。
胸の辺りを中心に無数の赤い跡がくっきりと残っている。
バスルームを出て部屋着を着たあと洗面台の前で髪を乾かしながら、帰り際に言われた桐生の言葉を頭の中で思い出していた。
髪を乾かし終えたあとリビングに戻ると鞄の中で携帯のバイブが鳴っていた。
鞄から取り出して携帯の画面に目をやると兄の涼太からだった。
『出るの遅すぎ。風呂にでも入ってたか?』
軽く嫌味を混じえながらも優しい口調で聞いてくる。
『うん、 さっき帰ってきたばかりなの。 シャワー浴びてたから気づくの遅くなった。 ごめん』
私はソファーにかけながら素直に答えたあと続けた。
『涼太こそこんな時間にかけてくるなんて珍しくない? 何かあった?』
私の問いに兄は呆れたような声で話す。
『来月の第2土曜日。 何の日かわかってるよな? 今回は嫌でも無理矢理連れてくぞ』
“ その話ね ”と心の中で呟いた。
『お母さんの誕生日でしょ? 仕事が終わらなかったんだからしょうがないよ。 それに嫌で行かなかったわけじゃないもん』