上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
誰もいないものと思っているところに急に人が現れれば誰だってビックリする。
その人影は少し離れたところにいることと薄暗さも重なって顔がよく見えないけれど、全体的なシルエットとなんというか雰囲気で大体誰だかわかった。
とはいっても、もし間違ってたら失礼かなと思い疑問形で聞いてみる。
「結城課長……ですか?」
洗い場を支えてるコンクリート部分に手をついて立っていた背の高い影は、その場で固まって突っ立ったままの私の元へゆっくりと歩み寄りながら言葉を放った。
「他に誰がいるんだよ」
やっぱり結城課長だ。
「なんでここにいるんですか?」
結城課長の言ったことをサラッと流して思ったことを口にしてみると私の質問もスルーされて今度は逆に問いただされる。
「藤井こそ何してるんだよ」
結城課長の質問になんて答えればいい?
頭の中でぐるぐる回ってるいくつかの言い訳を探しているうちに「う〜ん」と唸っていたらいつのまにか真上から声が聞こえた。
「そこ、そんなに考えるとこじゃねぇだろ」
なんでもお見通しって顔……。
162センチある私を余裕に見下ろすことができる結城課長の身長はおよそ180センチってとこだろうか。
サラッとした黒髪の直毛にちょうどいい襟足の長さが清潔感を感じる。
ハッキリとした二重だが切れ長な為どこか冷たい印象に見えるけど、少し長めの前髪から覗かせる吸い込まれそうなほど黒い瞳が女の私から見てもどこか色っぽく感じるほどである。
それに比べて二重ではあるけど特に特徴のない私。
昔からノーメイクだと幼くなりすぎるのがコンプレックスでアイラインで目尻をクッと上げるように書き、胸上まである直毛の毛先には緩いウェーブをかけて頑張って大人の女性を目指してる……。
良いところと言えばカラーしてる?ってくらい茶色い髪の色。
学生の頃はいちいち証明書が必要で大変だったけど社会人になってからはカラーしなくてもいいからすごく楽チンではある。
そんなことを考えながら結城課長の質問に対して私は本音を口にした。
「……ああゆうの、好きじゃないんです」
結城課長の顔を見ることなく落としたトングを拾い、もう一度洗剤を付けたスポンジで洗い始めながら呟いた。
これ以上突っ込んでほしくなくて簡潔に伝えながらそれらしいオーラを放ってみるがそれも無意味だと言わせるような言葉をまたひとつ私に向けてくる。
「ああゆうのって肝試しのことか? まさか藤井に限って怖いとかベタな言い訳しないよな?」
予想外の言葉に、はぁ?という表情でおもわず顔を上げると結城課長は左端の口角をクイっと上げて意地悪な顔をして見下ろしてる。
なにそれ?
どうゆう意味ですか?
オバケ怖いとかキャラじゃないって言いたいんでしょ。
まぁ、間違ってないけど。
と言いたいけれどここはグッと我慢して結城課長を軽く睨むだけに留めた。
仕事の時でもあまり深掘りしてこないのに今日はぐいぐい来る感じ。
こうゆうの苦手……。
なんて言えばこの会話を終えることができるのか一瞬止まった手を動かし洗い物を続けながら考えてると、
「機嫌悪くしたなら謝る。だけど上司としてはこんなとこに1人でいるから心配して聞いてるんだけど」
そう言って“ふぅー”っと頭の上からため息が聞こえたら、なんだか私が悪いような気がしてきて気付いた時には私から「すみません。機嫌悪いとかじゃないんです」と一言いってから続けた。
「バーベキューは楽しいんですけど肝試しの時のノリとゆうかが苦手で…… こっそり抜けてきたんですけどやる事ないので片付けでもしようかなと思って……」