上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※

その人影はすぐに藤井だとわかり俺の足は自然と洗い場に向かっていた。


洗い場の端でしばらく立ち止まって様子を伺ってたら鼻歌が聞こえてきて声をかけるタイミングを完全に失ってしまう。


さて、なんて声をかければいいんだ?
ガラにもなく躊躇していると、俺の視線を感じたのか藤井はふっとこちらを見た。

「結城課長……ですか?」


藤井との距離を縮めたくて徐々に歩み寄る。

だんだんと近づいてくるともっと近づきたい。もっと知りたいと俺の欲求は更に膨らんでいって藤井に触れた瞬間気持ちを抑えることができずキスをしていた。


「付き合ってみる?」
気づけば口にしてしまったことを後悔したものの藤井の口から出た答えは意外にも「はい」の言葉だった。


今までの藤井の態度から考えれば好意を持たれてるようには感じられない。
それに俺自身も他に好きな奴がいるのに何言ってんだ?


まぁ、いずれ藤井から愛想を尽かしていくだろうと頭の隅で酷いことを考えながら俺たち
はそのまま付き合うことになった。


もともと俺は仕事とプライベートをきっちり分けているのもあってか社内恋愛はそれが曖昧になる気がしていた。


だが今回は少し違う。
それは藤井の方から付き合っていることを内緒にしてほしいと言ってきたからだ。
元々、俺もそれには賛成だった為社内ではお互い必要最低限しか話さなかった。

しかし、それ以外にも違ったことがあった。
例えば藤井から連絡はほぼこない。
外で会う約束も俺から言わなければまずない。

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