上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
すると結城課長はウィンカーを出して左の路肩に車を寄せた。
ジッと私の方を見て黙ってる。
なぜ急にそんなことを言ってくるのかわからなくて戸惑っていると、私の左頬に手を添えて顔を近づけてきた。
「な、なんで?」
「名前で呼ばないとキスする」
「意味がわかりません!」
反発してみるが抵抗するも虚しく結城課長は無理矢理唇を押し当ててきた。
「ちょっ! 待って!」
顔を背けて必死に抵抗する。
結城課長は唇を放してくれたけど顔の位置は近いままだ。
「あ、あの……」
「名前は? ちゃんと呼んでほしい」
真顔で迫ってくるように言ってるけど声音は優しくてどこか切なそうにきこえた。
「……尊……さん」
ゆっくりと結城課長の顔を覗き込むと今まで見たことのない優しい顔をして一言言った。
「もっと早くからこうしとけばよかったな」
結城課長……ではなく尊さんは満足したのか私の頭を優しく撫でて車を走らせた。
今日の尊さんはどうしたというのだろう?
そもそも尊さんには今でも忘れられない人がいるというのにどうして私をご両親に合わせたりしたんだろう?
いきなり名前で呼べだとか車の中とはいえ道端でキスしてくるとか私の知っている尊さんはこんなに強引なことする人じゃないんだけどな……。
「そういえば、 親父とお袋が食事の時の亜子を見てマナーが綺麗だと言っていたよ。 習ったのか?」
「いえ、 母がマナーには厳しかったので自然と身につきました」