上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
そう、お母さんは昔から礼儀作法に煩くて特にテーブルマナーは厳しかった。
家で食べるのはもちろんのこと、お店で食べる時の椅子の座り方から綺麗に盛り付けられた料理の食べ方など、どこに行っても恥のないようにと徹底的に教え込まれた。
涼太なんて子供の頃、箸の持ち方が悪くて食べ終わった後も練習させられたっけ?
あの頃はよくわからなかったけど、こんな形で役に立つとは思わなかった。
「亜子は兄弟いるのか?」
「兄が1人います」
そういえばあまりこういう話したことないかも。
私の生い立ちとか話すべきなのかな?
でもなんて言う?
まだいいよね。
「そういえば、尊さんのご実家って何かされてるんですか?」
自分に向いてた話題をそれとなく尊さんの方に向ける。
尊さんは運転中なので前を向いたまま話し始めてくれた。
「リゾートホテルの経営をしてるんだ。 兄貴と姉貴は大学卒業後そのまま働き始めたけど、俺は自分の力を試したくて今の会社に入ったんだ」
「あの庭園や自宅っぽくない作りはそこからきてるんですね」
「まぁたしかに、ガレージから玄関まであんなに歩く家ないよな」
たしかに。
でもリゾートホテルを経営してるとなれば納得かも。
「そのうち行ってみるか?」
「え? どこにですか?」
首を傾けた私を見て尊さんは口角をあげてチラッとこちらを見ながら言う。
「いくつかあるからさ、 うちのリゾートホテル。 たまに行くのもいいかもな」
「え? 行ってみたい!」
思わず声に出してしまって、あっ、と左手を口に当てた。
何言ってるんだろ。図々しいにも程がある。