上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「すみませんっ、 調子に乗ってしまいました」
頭を下げてあたふたしていると尊さんはチラッと私を見て「なんで?」と聞き返してきた。そしてすぐに正面を向いて話を続ける。
「亜子はなんでも遠慮しすぎだろ。 もっと言いたいことあったら言って欲しいんだけど」
「……そんなことないですよ?」
遠慮してるつもりはない。
でも尊さんは、もっと何でも言えと言ってくる。
私は今でも十分なんだけど。
なんだか気まずくて車の外に目をやるといつの間にか東京を離れていて視界には山や緑が広がる自然いっぱいの場所にやってきた。
“ 臨時駐車場 ” と書いてある敷地に入り車を止めて目の前の坂道を歩いて行くと川沿いの土手に植えてある桜並木が見えてきた。
ちょうど満開の時期で上を見上げると桜の花が空いっぱいに広がっている。
「きれい…………」
思わず口にする。
だって、本当に綺麗……。
風が吹くたびにヒラヒラと花びらが降ってきて視界をピンク色に染めていく。
あまりに綺麗で私の足は地面とくっついてしまったようにその場から動けないでいたら、突然尊さんに背後から包み込むようにして抱きしめられた。
驚いて顔を後ろへ向けると頭上から桜の花びらと一緒にキスが降ってきた。
「尊さん?」
「花見って酒飲む以外何が楽しいんだって思ってたんだけど」
尊さんは真っ直ぐ前を見つめながら話した後、そっと私の耳元に唇を近づけて囁いた。
「今日初めてわかった気がする」
きつく抱きしめられた体と、風で舞う花びらのせいで感覚がおかしくなってくる。
私は顔を赤くしてしばらく俯いていた。