上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
この土手沿いにある桜並木は知る人ぞ知る名所らしい。
屋台みたいなのは何もなくて道路沿いにベンチがあるだけ。
それにお酒を飲んでる人も少ないせいか煩くなくて目を閉じて耳を澄ませば近くの川の流れる音が聞こえる。
尊さんは後ろからからずっと抱きしめたままでいてこのままでいいって言うけど、私が緊張に耐えられなくなってひとまずベンチにかけることにした。
だけどホッとしたのもつかの間でベンチにかけてからは、私の右手を握ったまま離してもらえず頭の中は軽いパニック状態だ。
今まで手を繋いで歩いたことすらなかったのに急にどうしたんだろう?
不思議に思って尊さんの顔を見ると、ふと目が合って見つめ返してくれる。
口角を上げて私に向ける笑顔はいつもの意地悪な顔じゃなくて優しくてどこか色気のある顔。
優しかったり甘かったり……今日だけかもしれない。
1つの答えが頭に浮かぶ。
明日になればまた元に戻るかもしれない。
なら、ほんの少しだけ甘えてもいいかな……。
今だけ素直に好きと伝えても迷惑にならない?
私は繋がれてる右手を握り返して尊さんを見ると彼も私を見てくれた。
尊さんの吸い込まれるような黒い瞳に見つめられながら勇気を出して伝えようとした瞬間、ブワッと音を立てて大きな風が吹いた。