上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「いい加減、男の話はその辺にして早く仕事しろよ」
缶コーヒーを右手に持って椅子に座っている私と横で立ちながら話していた恵菜ちゃんの後ろを通り過ぎながら、いかにもめんどくさそうな声で恵菜ちゃんに突っかかってきた奴は桐生 賢人(きりゅう けんと)。
私の同期であり飲み仲間。口は悪いが笑うと目の周りがクシャっとなって仔犬のような可愛い系男子。後輩女子達の間で密かにファンクラブ的なものがあるらしい。
「しかたないじゃないですかぁ。だって結城課長、超ーカッコイイんですもん!」
負けずと恵菜ちゃんが反撃する。
私の斜め前にある自分のデスクの椅子に座り背もたれにもたれながら桐生は呆れたような言い方で恵菜ちゃんに返す。
「別に本気ってわけじゃないんだろ? だったら心の中で唱えとけ!」
え?
そうなの?
でも唱えるって何を?
2人の会話を聞いてないフリしながら頭の中は
いろんなことがぐるぐる駆け巡る。
内心ソワソワしていた私とは別に、少し前までうっとりした瞳で話していた恵菜ちゃんの目は一気に伏せ目がちになり顎をやや上げ気味にして、一瞬にしてツンっとした表情を作り上げた。
そして椅子に座っている桐生を見下ろしながら言い放つ。
「誰も結城課長を好きだなんて言ってないじゃないですかぁ。目の保養ですよ! 目の保養!」
「イケメン見るだけで仕事にやる気が出るんですから私なんて安いもんですよ!」
そうだった。
めちゃくちゃ女の子っぽい恵菜ちゃんの中身は、その辺の男子よりもサバサバしてて見ていて気持ちがいいくらいなのだ。
結城課長の名前を聞いて動揺しすぎて忘れてた。
以前恵菜ちゃんがいろんな人から告白されてるけど片っ端から断ってるって言ってたのを思い出した。
「付き合うならちゃんと好きな人と付き合いたいんです! 今は特に好きな人もいないですし無理やり好きな人を作れるもんでもないじゃないですかぁ!」
いつか話していた恵菜ちゃんの言葉を思い出して私の胸がチクリと痛んだ……。