上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
エントランスを抜けて外に出ると目の前の光景に私の心臓がドクンと鈍い音を立てたのを感じた。
ビルから少し離れた街路樹の陰に隠れるようにたたずむ男女の陰。
薄暗くはあってもあれが誰かはすぐにわかる。
「あれ、結城課長だろ? 女といるとこ見たの初めてだな」
桐生の言葉に雅が何か言っているけど私の耳は途中から靄がかかって何も聞こえなくなってた。
何か話をしていた尊さんと女性はすぐに何処かへ歩いていって私はそれをただ立ち止まって見ていることしかできなかった。
「亜子……行こう」
雅が私の手を握って心配そうな顔をして覗いてる。
「うん! 行こう」
私は桐生に気づかれないように平気な顔をして返事をした。
私たちが向かった先は駅前の大きな通りから一本入った細い通り道にある一件の居酒屋さん。
この通りは昔からあるお店ばかりで私たちが3人で行く時はここと決めてる。
「いらっしゃいませ〜」
「おばちゃん、ひさしぶり!」
右手を上げて挨拶しながらズンズン入って行く桐生のあとを私たちも追って進む。
狭いお店だけど小上がりの個室が2部屋あっていつもそこへ通してもらっていたのを覚えていたおばちゃんは、私たちを見て奥の方を指で差して「空いてるよ!」と言って通してくれた。