上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
いくつかお菓子を選んでレジへ持っていくと沙知ちゃんが会計をしてくれた。
「亜子ちゃん、次帰って来るときは絶対連絡してよね!」
「うん、次は必ず! 仕事頑張ってね!」
お店の奥でケーキを作っている沙知ちゃんはすごくカッコいい。
頑張ってね! 私は心の中で呟いてエールを送った。
沙知ちゃんのお店を後にして駅に向かうと予定より早く着いた。
少し早いけど新幹線のチケットを買ってホームで待っていると見送りで付いてきた涼太が突然話し出す。
「亜子。俺、里子(さとこ)と結婚しようと思ってるんだ」
「え、そうなの⁉︎ おめでとう!」
涼太と里子さんはもう5年くらい付き合っていてお父さんもお母さんも「結婚はまだなの?」と急かしていたくらいだ。
私も何度か会った事があるけど優しくて綺麗な人で涼太とお似合いだと思う。
「もっと早く教えてよ!」
「ん? あぁ、そうだな」
いつも自信満々な喋り方なのに涼太の歯切れの悪い言い方を不思議に思った私は首を傾げてみせた。
「結婚したら家を出る予定なんだ。亜子はずっと東京にいるつもりなのか? そうじゃないなら帰ってこないか? 帰ってきてあの家に住むのはどうだ?」
涼太の突然の話になんて言えばいいのか分からなくて言葉が出てこない。
「すぐに帰って来いと言うわけではないんだ。返事もすぐじゃなくていい。亜子にはいつかCHAINONの一員になって欲しいんだ。」
「そんなこと急に言われても……」
動揺する私を見て涼太は冷静に話し続ける。
「あぁ、無理強いするつもりはない。亜子の人生は亜子のものだ。ゆっくりでいいから考えてみてくれないか?」
いつになく真剣な表情の涼太に戸惑っていると新幹線がホームに入ってきた。
私は涼太の方を向いて「考えてみる」と小さな声で言ってそのまま帰った。