秋に、君に恋をする。
5年ぶりに再会した勇太朗は、小学生の男の子だった勇太朗じゃなくて、私の知らない、高校生の男の人になっていた。
高い身長もがっしりした背中も、引き締まったお腹も、筋が見える腕も低くて落ち着いた声も、全部私が知らないもので、置いて行かれたような、そんな気分だった。
だから私は昔のような勇太朗を見て、下手くそな水切りも、楽しくて仕方なかった。
昼になっても魚は一匹も釣れなかった。
昼食を食べる頃になり弁当を開いたが、誰かに自分が作ったお弁当を食べてもらうのは初めてで、ましてやそれが勇太朗相手だったので、どういう反応をされるか気になって仕方がない。
祖母から借りた2段の大きなお弁当箱を広げたら、ほぼ祖母が作った料理の美味しそうな匂いがふわっと香った。
「おお、美味そう」
「ほんと!?」
「うん、美味い。さすがばーちゃん」
「…」
そうだよ、そうなんだよ。
このお弁当は祖母にレシピを教えてもらいながら一緒に作ったわけだけど、祖母が手伝ってくれたんじゃなくて、私が祖母の手伝いをしたようなものだ。
……さすがおばあちゃん。
「あ、このポテトサラダお前が作ったやつ?」
「え?」
「ばーちゃんこういうの作んないし」
「え、ま、不味い?」
「いや、……普通に美味い」
「ほんと!?」
「普通にな、普通に」
そう言って勇太朗は、私の方を見なかったけれど、ぱくぱくと大量に入れたポテトサラダを食べていた。
「明日勇太朗学校だっけ?」
「んー」
「文化祭何するの?」
「あー、割り箸にきゅうりぶっさして、味噌つけるやつ」
「え、なにそれ!文化祭楽しそう」
「お前のとこは?」
「うちの学校の文化祭は招待券ないと入れなくてね、屋台とかじゃなくて学習発表みたいなやつで、超つまんないよ」
「何それ超ラクそう」
「まあラクではあるけど」
結局魚は夕方になっても釣れなくて、二人でまたカブに乗って帰った。
大量のお弁当が空っぽになったからなのか、肩がすごく軽く感じた。