秋に、君に恋をする。
「おばあちゃんごめんね、いきなり来ることになって」
「何言ってるの、ばあちゃんも嬉しいよ。お昼そうめんでいいかい?」
「ありがとう。少しの間お世話になります」
祖母の家に来たのは小学6年生の夏休み以来、5年振りになる。
父親も母親も仕事一色の人達で、その二人の子である私もまた、小さい頃から勉強一色だった。
中学受験というものをし、進学校に進み、全国模試テスト全国模試の繰り返し。
それは高校生になった今も変わらない。
夏休みは毎日夏期講習だし、たまにできた休みは、浅い付き合いの数少ない友達と遊ぶ事に費やした。冬休みも春休みも同じ。
祖母の家は、古いけど木造の大きくて立派な家だ。
祖父が亡くなって数年、祖母が一人で住むには大きすぎる気がする。
荷物を置いて、全身の力が抜けていくかのように廊下に寝転がる。
ひんやりして、気持ちよかった。
少し離れた台所から、トントンときれいな祖母の包丁の音がする。
外では、セミの鳴き声が響いている。
たまに道を走る軽トラのエンジン音が聞こえる。
冷たい床で、疲れを癒すように目を瞑る。
あー、気持ちいいなあ。
「なにやってんの、お前」
目を瞑ったら低い声が聞こえた。男の人の声だった。
その声は耳にすんなりと入ってきて、身体が落ち着いた。
はっとして目を開ける。
その男の人は私に背を向けて、台所の祖母のところまで歩いていった。
「ばーちゃん、米持ってきたよ」
「あらあ、勇太朗いつも悪いねえ」
「いいんだよ、いつも野菜もらってるんだから」
「あ、そうだ、テストはどうだったの?」
「え、それ聞くの?無理無理、授業とか聞いてねえもん」
勇太朗、だ。
勇太朗。うわあ。本当に勇太朗だ。
後ろ姿だけど、背が高くなってガタイがよくなってる。