秋に、君に恋をする。
「……東京になんて、帰りたくない」
畳にできた染みのように、ぽつりと、声がこぼれる。
小さくて弱々しい声が、こぼれた。
「帰る場所なんてない、…私に、居場所なんてない」
「おい、あき」
「私の事知ってる人がいないところに、消えちゃいたい…っ」
「あきは!」
私の小さくて弱々しいその声を、一瞬で、救い上げるように。
彼の大きくてしっかりした声が、畳の部屋に響いた。
「あきは」と、5年振りに呼ばれたな、なんてそんな事を考えた。
「少なくとも、ばーちゃんも、俺の母親も、俺も、お前が来て嬉しいと思ってる」
散らばっていた服を握っていた手に、力が入った。
「ばーちゃんは俺達が小学生の頃から、夏休みが来るのを楽しみにしてた。お前が、ばーちゃんちに来るからだよ。お前のじいちゃんが死んでひとりぼっちだったばあちゃんが、お前が来るといつもすげえ嬉しそうに笑ってた。お前の為に美味い料理作ろうってたくさん勉強してた。お前が来なくなってからも、ずっと、今年は来るかなっていつも連絡を待ってた」
「っ」
「うちの母親は、ばーちゃんといっしょに煎餅食べながら、お前がどんな風に成長してるかなって、口癖みたいにいつも気にしてた。俺が勉強しないの見て、あきはちゃんはあきはちゃんはって、お前の話ばっかり出してきた」