秋に、君に恋をする。



 朝食を食べて、急いで髪を直して日焼け止めを塗って化粧をした。

勇太朗は家からカブを持ってきて、ついでに一緒に来た猫のアキホを撫でていた。

勇太朗がカブに跨って、私もその後ろに跨って、聞き慣れたカブのエンジン音と共に、いつもより少しゆっくりとコスモス祭りに向かった。



コスモス祭りというだけあって、一面がコスモスだらけだった。

確かに高校生男子にとってはつまらないかなー、なんて思ったけれど、でも私が「きれいだね」と言うと、小さく「うん」と返事が来たので、ばれないように小さく笑った。


「あ、赤とんぼ」

ピンク色のコスモスに、赤とんぼが止まった。


「お」

「もう秋だね」

「秋だな」

夏が終わるこの時期、私はいつも、夏休みの記憶を思い出しながら机にかじりついて、ただ時間が過ぎることを待っていた。

そんな時期に、こんな心地良いところで、見た事もない程たくさんのきれいなコスモスに囲まれて、のんびりと赤とんぼを眺めるのは初めてだった。


「このコスモス持って帰りたいな…」

「無理だろ」

「少し、少しだけもらっていいかな」

「持ち帰ってどーすんだよ」

「うーん、押し花にして、栞にでもするよ。うん、そうしよう」


ごめんなさい、と呟いて、地面に落ちていたコスモスを一輪いただいた。

赤とんぼが二羽に増えていて、仲よく飛んでいった。



 帰りもカブに乗って、来た道を帰る。

祖母が昼食を作って待っていてくれて、食べ終えたらすぐに帰る準備をした。


「おばあちゃん、5日間ありがとう」

「あきは、またいつでもおいで」


祖母が少し小さく見えた。


「うん、また来るね」


祖母のしわしわの手を握ってそう言ったら、嬉しそうに笑っていたから、私は、胸がきゅうっとなった。

おばちゃんにも挨拶をして、思い切り抱きしめられた。



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