秋に、君に恋をする。
「ゆ、勇太朗」
その背中に、声を掛ける。
彼に会うのも5年振りだったので、声を掛けるのに勇気を振り絞ったけど、戸惑いはなかった。
「ん?」
5年振りに会ったというのに平然としている彼に、逆に戸惑ってしまった。
勇太朗に出会ったのは、私と彼が小学1年生の夏だった。
あの夏、お父さんは単身赴任中で、お母さんはその頃、生まれたばかりの私の弟の世話で手いっぱいだった。
その為に夏休みの間はずっと祖母の家で暮らしていたのだ。
お母さんは何故かわからないけど田舎が嫌いで、こんなにきれいな場所に私を連れてくる事はなくて、祖母の家に来たのはこの時が初めてだった。
『あきは、この子近所の勇太朗だよ。ちょうどあきはと同い年だから、仲よくしてくれる?』
そう言われて始めは戸惑ったけど、私が祖母の家で宿題をしていると、いつも勇太朗が無理矢理手を引っ張って外に連れ出してくれた。
最初は嫌だった。
だけど、ゴミが浮いてなくて魚が泳いでいる川とか、
タバコが捨てられてなくて花が咲いている道だとか、
車があまり通らなくて自由に走り回れることができる道だとか、
ビルなんてどこにもなくて山に囲まれている緑の世界だとか、
私の知っていた小さな世界にはないものが、この場所にはある事を知った。
それからは日に日に新しい発見をする事が不思議で、勇太朗といるのが楽しくて、夏休みの間は毎日のように勇太朗と遊んだ。
翌年もその翌年も、祖母の家に遊びに来て、必ず勇太朗に会いに行った。
だけど中学に入った途端勉強に囚われて来る機会が作れずに、私はこの場所での事が夢のような時間に思えた。
「あの、私、あきは…です」
何を話していいかわからずに、もしかして私を私だと気付いていないのではないかと思い、人差し指を自分に向けて勇太朗の顔をうかがう。
そしたら勇太朗は、きょとんと不思議そうに私を見た。
「何言ってんの、知ってるよ。久しぶり」
「え!あ、うん、久しぶり…」
「ふ、挙動不審すぎ。ばかじゃねえの」
「ば、ばかって…」
口が悪いというか、こうガキ大将気質というか、そういうところは全く変わっていなかった。
久しぶりに会ったというのに、勇太朗は至って普通で、嬉しそうにする素振りもないし、感動の再会というのはもちろんなかった。
私は、すごく嬉しいんだけどなあ。
そんな私と勇太朗を見て、祖母が隙間だらけの歯を見せて笑った。