秋に、君に恋をする。
「勇太朗、お昼食べていったら?」
「あー、これからバイトなんだよ」
勇太朗の言葉に、おばあちゃんは「あらまあ、大変だわ~」と相変わらずにこにこしていた。
「えっ勇太朗バイトしてるの?」
「うん、まあ。…なんだよ」
「いや、なんか意外で…勇太朗、バイトとかできるんだ」
「はあ?」
「お金貯めてるの?」
「まあ」
「なんで?」
「なんでって…金が欲しいからに決まってんだろ」
「ふーん」
高校生になってバイトができる年齢になったけど、うちの学校の人はバイトをしている人は少ない。というか、いないんじゃないかな。
それくらい、勉強についていくので精いっぱいなのだ。
だからバイトをしている同い年の人か珍しいというか、憧れるというか。
でもまさか、勇太朗がバイトしているなんて。
もうそれ、大人じゃん。
バイトだけど、ちゃんと社会に出てるってことでしょう。
私みたいにあの学校の中の小さな世界で生きている人間とは違うんだ。
…なんか、置いてけぼりだなあ。
少しだけ勇太朗が知らない人に見えた。
「お前は?」
「え?」
「なんで来たの、ここ。てか今日木曜日だけど」
「え、えーっと…」
ただの何気ない質問なのに、言葉に詰まってしまう。
私は勇太朗から目を逸らしていた。
「息抜きだよ、息抜き。もうずっと来てなかったし、久しぶりに来たいなあって、ね?今日と明日は、創立記念で休み!」
「ふーん。ま、ゆっくりしてけば」
そう言って勇太朗は私の頭を両手で掴んんで、ぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
夏休みにパーマをかけて少しだけ染められた茶色い髪の毛が、余計に絡まってひどく荒れた。
「なっ何すんの、もう」
「じゃ、バイト行ってくる」
手ぐしで頭を直しているところに、ぽんぽんと手を置かれ、勇太朗は小さく笑うと、そのまま庭に停めてあったカブに乗って行ってしまった。
そのあとを、しばらく私は縁側かぼーっと眺めていた。
まるで、小さい頃に戻ったみたい。
「あきは」
「ん?なに、おばあちゃん」
「家には連絡したの?」
「あー、今、二人とも仕事中だから…」
鞄の奥底に眠るiPhoneの存在を思い出す。
「おばあちゃん、本当にいきなり来てごめんね。迷惑かけちゃうけど…」
「なに言ってるの、ばあちゃんあきはの顔見れて嬉しいんだから。ほら、そうめん、机に運んでくれる?」
「うん」
これは、私のささやかな逃避行。協力者はおばあちゃん。