秋に、君に恋をする。
創立記念日で休みだというのは嘘だ。
昨日の夜に祖母に連絡して、私は両親に内緒で学校を休んで、この田舎までやってきたのだ。
医者をやっている両親は、家に帰って来る事はまずない。
父親は父方の祖父の経営する病院の跡取りで、元々家庭の事に干渉しない人。
母親は、私を出産した時にできてしまったブランクで、どんどん発展していく医療に置いて行かれそうになったらしい。
小さい頃から私の事は仕事の次だった。
弟ができて、また弟も私みたいに放っておかれるのか、なんて思ったけれど、そんな事はなかった。
私みたいに田舎に預けられるなんて事はなく、母親は弟につきっきりだった。
幼稚園からいいところに通わせて、今も名門小学校でいい成績を取っているらしい。
母親は今は現場に復帰していて、弟についていた時間の分を取り戻す為に必死で、家に帰って来る事はほとんどなくなった。
弟は何かあったら困るからと、母親が勤める病院から近い父方の叔父夫婦のところに預けられている。
だから私がいなくなった事に気付くのは、きっと当分先。
気付いたら気付いたで慌てる事もなく、呆れるだけだろう。
高校も、私が希望していた高校じゃない。
昔は仕事を継いでもらいたいという親の期待に応えたくて頑張っていたけれど、弟ができた途端弟親の目がそっちに行ってしまってから、私には何もかもが虚しく見えた。
私は、できそこないだから。
高校では、成績は下から数えた方が早いし、順位が伸びるわけでなく下がっていく一方。
先生は頭のいい子しか相手にしないし、かといって成績が悪いと、目をつけられる。
目をつけられてしまった私は、いつも先生のストレスのはけ口として放課後の生徒指導室で、あの低くて乱暴な声で汚い言葉を浴びせられる。
私にはあの小さな世界がとても色褪せて、だんだん色もなくなって灰色一色に見えた。