秋に、君に恋をする。
「変わってなかったでしょう」
「え?」
「勇太朗。昔のまま」
ふふふと、やっぱり隙間だらけの歯を見せて祖母が笑う。
変わってないのかな。
私には、彼がとても色鮮やかに見えて、眩しかったけれど。
それは勇太朗が、私を置いてどんどん遠くに行ってしまった証拠なんじゃないのか。
「うーん、すごく大きくなってたけど。あ、でもあの偉そうなところは、変わってなかったかな」
「そうねえ」
そうめんをずずずっと口の中に入れる。
そうめんが喉を通るとひやっとして、冷たくて、身体中に流れていく気がした。
午後になって、祖母は扇風機の前でお昼寝をしていて、私は縁側で寝転がって雑誌を読んでいた。
周りは騒がしくなくて、急いでいる人なんて誰もいない。
こんなに時間がゆっくり流れているのは久しぶりで、いつの間にか瞼は重くなって、気づいたら目を閉じていた。
突然玄関の戸が開く音がして、足音に気づいたのは夕方の事だった。
「あきはちゃん、来てるんだってー?」
「え?」
目をこすりながら、起き上がる。
祖母はもう寝ていなくて、扇風機は私の足元で首を振っていた。
「あきはちゃん!久し振りねぇ!」
「え、おばちゃん?」
足音は、勇太朗の母によるものだった。
一人でこの家に住む祖母の事を気にかけて、よく来てくれているのだ。
「あら、あきはに会いに来たのかい」
「ご近所で噂になってるわよ、見た事ない女の子がばーちゃんちに入ってったって!ばーちゃんちに来る女の子っていえば、そんなのあきはちゃんしかいないでしょう!そりゃこんなに大人っぽくなってれば見た事ないってなるわ!もーばあちゃん教えてよ!」
「ははは…」
「あきはちゃんすっかり美人さんなっちゃって!おばちゃん嬉しいわあ」
おばちゃんに背中をバシバシと叩かれる。痛いとは言えず、ただただおばちゃんの勢いに圧倒された。
「夕飯食べてくかい?」
「あら、じゃあお邪魔しようかしら。あ、あきはちゃん勇太朗には会った?」
「あ、さっき会いました」
「あらあらあら!」
おばちゃんがにやにやと怪しい笑みを浮かべながら、また私の背中をバシバシと叩いた。