秋に、君に恋をする。
「勇太朗8時までバイトなのよ。終わったらこっち来るように言っておくわ」
そう言っておばちゃんは携帯を取り出して勇太朗宛にメールを打った。
「そういえば勇太朗、テスト中なんですか?」
「そうなのよー、明日までテスト期間なのに、あの子バイト入れて!テストもできないし困っちゃうわあ」
「夜、ここにきて勉強しないで大丈夫なんですかね…」
「大丈夫大丈夫、あの子家帰っても勉強しないから!いつも全く勉強しないの!」
「ええ!?」
それは、私の通う学校では考えられない事だ。
やばいな勇太朗。
勉強しないでテスト受けるとか、どこから来るんだろう、その肝っ玉の据わり方は。
「あきはちゃん勇太朗に勉強教えてやってよ~教科書持ってこさせるから、ね!」
「えー、でも私教えられるかどうか…」
「なに言ってんの、あきはちゃんの方が頭いいに決まってるんだから!ね、お願い!」
「うーん、いいですけど…」
「よかった!ありがとうあきはちゃんっ」
おばちゃんが言ったとおり、勇太朗は8時を過ぎて帰ってきた。
むくれた顔をしながら、でも手には素直に教科書を持っていた。
祖母とおばちゃんと、時々私も手伝って作った豪華な料理に目を向けて「美味そうっ」と声を上げた。
盛られた料理が勇太朗の食欲によってどんどんなくなっていく。
その勢いに圧倒されて、私は勇太朗をずっと見ていた。
周りにいる男の子といえば学校の男子くらいで、こんな体育会系の人なんていない。
男の人ってこんなにたくさんの量食べるんだ。
「…何見てんだよ」
「いや…よく食べるなあと…」
「お前食べてるの?」
「8時過ぎてるから、あんまり…」
「なんだそれ。いいから食べろよ」
手の甲でお皿を目の前に押され、勇太朗はずっとこっちを見ているものだから、私は渋々目の前の料理を口に入れた。
わ。美味しい。
おばあちゃんの料理、久しぶりに食べた。こんな味だったっけ。
こんなに美味しかったっけ。
最近ご飯がのどを通らなかった。
食べても戻す事が多かった。
そのくせ食べるものはコンビニとかマックとかスーパーとかカップラーメンとか、適当なものばかり食べていたから、手作りのものを食べるのは本当に久しぶりだった。