秋に、君に恋をする。


 ご飯を食べた後に、おばちゃんに言われた通り勇太朗の勉強を見る事になった。

私の学校ではだいぶ前にやった部分だったので、というよりも既に中学時に塾でやっていたので、教えるのはそこまで難しくはなかった。

しかし勇太朗は予想以上に頭が弱かった。


「勇太朗…勇太朗ってこんなにばかだったの…」

「うっせ」

「とりあえず、数学はこの公式覚えて。あとこれも。絶対覚えて。で、英語はこの文法絶対覚えて!絶対!国語はまあ、あれだよ、日本人だから大丈夫でしょ」

「お前俺のことばかにしすぎだろ」

「だってこんなにばかな人見た事ない…」

「おい」


 12時を過ぎた頃、「こんなに勉強したのは初めてだ…」という言葉を残して、カブに乗って帰っていった。


ここの夜は静かで、一晩中明かりがついているオフィスも、ピンク色のネオンもないし、酔っ払いの叫び声も、車のクラクションも聞こえない。

夜はこんなに暗くて、星は光るものだと、初めてここに来たときに、初めて知った。


 鞄の底に入れたiPhoneを引っ張り出して電源を入れる。

Wi-FiもないしLTEも繋がらなくて、アンテナが二本しか立っていない。
でもそんな事は全然苦に感じなかった。

親からの連絡はもちろんなかった。
浅い付き合いの友人が、LINEのグループで、次のテストの会話をしているくらいだった。

しばらくその画面をぼーっと見つめて、少ししてまた電源を切った。

いつもなら2時くらいまで勉強して眠る。

最近は眠る事もできなくて、ただ机に向かって手を動かす日々が続いていた。

自分の部屋のふかふかのベットじゃなくて、畳の上に敷いた、昼間太陽の下で干した布団の方が温かかった。



お風呂から上がって布団に潜り込んだら、寝れない不安なんてあっという間にどこかに飛んで行って、あっという間に眠ってしまった。




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