時の欠片
おばさんは虚ろな瞳で火葬用の小さな部屋に桜の棺が入れられているのを見詰めていた。
桜のお父さん、おじさんは桜がまだ幼かった時に病気で亡くなったらしい。それから女手1つで桜のことを育てて来たおばさんになんて声をかけたら良いのか僕には分からなかった。
大切な一人娘を亡くしたおばさんはこれから先1人で生きていくのだろうか。
悲しさや寂しさ全てを飲み込んで自分の娘が歩めなかった明日を歩んでいくのだ。
それがどんなに辛いことなのか子供を持たない僕には分からない。それでも、桜という一人の人間を無くしてしまった哀しさだけは理解出来た。
火葬が終わるまでの間、僕達は待合室で時間が過ぎるのを待っていた。買っておいたお弁当が配られて親族達はそれぞれに好きなようにお喋りをしている。
そんな中で、僕とおばさんだけは同じテーブルの隣同士に並んで腰掛けた状態でただ生温いお弁当を見詰めていた。
自分を責ながら
自分だけが生きていることを責ながら
それでも、仕方の無い事だったのだと納得して噛み砕いていくことしか出来ない。
だって、そうしなければ彼女のいない未来を生きていくことがとても難しいのだ。
何分?何時間?経ったのか分からないけれど火葬担当の方が部屋に来て桜の火葬が無事に終わったことを伝えられた。
僕とおばさんは2人だけでお骨上げをした。
おばさんは虚ろな目からぽろぽろとまた涙を流しながら震える手で桜の骨を壺に入れていく。
僕はやっぱり桜のこの姿を見ても頭の中にモヤがかかったように飲み込むことが出来なかった。
担当の方の支持を受けながらお骨上げを進めていく。
桜は骨になっても真っ白なのだと、ふと思った。
陶器の様に白い肌に赤みが指すととても可愛らしかった。何処までも純粋で、おとぎ話のお姫様に憧れている様な乙女チックな彼女が好きだった。
1度も染められたことの無い艶やかな黒髪も少し色素の薄い茶色の瞳も何もかも彼女の物だったから愛しく思える。
けれど、もうそれにすら触れられないのだ。
「では最後に喉仏のお骨をお入れ下さい。」
僕はそっと腕を下ろす。
それを見ておばさんが桜の喉仏の骨を壺に納めた。
さよならと心の中で言いかけて、僕はその言葉を桜が嫌っていたことを思い出した。
彼女に出会ってすぐの頃、さよならと何気なく言ったら桜は少しだけ困った顔をしてその言葉はあまり好きじゃないのだと僕に言った。
さよならと言われると寂しくなるのだと、幼い頃に父親が亡くなって本当のさよならを経験した桜はそれがとても寂しいものなのだと理解させられたから、だから、ばいばいもさよならもあまり好きではないのだと悲しそうにそう教えてくれた。
僕はおもむろに桜の入った壺に触れた。
そして目を閉じて小さな声で、またねと挨拶をした。
僕がいつか桜と同じ様に心臓を止めて呼吸が止まって身体の全機能が停止した時、また来世で彼女に会えるように。
おばさんは顔を手で覆ってやっぱり泣いていた。
僕がいつも抱きしめていた僕の中にすっぽりと収まる小さな彼女は両の掌で支えられるほど更に小さく小さくなって僕に抱きしめられていた。
桜のお父さん、おじさんは桜がまだ幼かった時に病気で亡くなったらしい。それから女手1つで桜のことを育てて来たおばさんになんて声をかけたら良いのか僕には分からなかった。
大切な一人娘を亡くしたおばさんはこれから先1人で生きていくのだろうか。
悲しさや寂しさ全てを飲み込んで自分の娘が歩めなかった明日を歩んでいくのだ。
それがどんなに辛いことなのか子供を持たない僕には分からない。それでも、桜という一人の人間を無くしてしまった哀しさだけは理解出来た。
火葬が終わるまでの間、僕達は待合室で時間が過ぎるのを待っていた。買っておいたお弁当が配られて親族達はそれぞれに好きなようにお喋りをしている。
そんな中で、僕とおばさんだけは同じテーブルの隣同士に並んで腰掛けた状態でただ生温いお弁当を見詰めていた。
自分を責ながら
自分だけが生きていることを責ながら
それでも、仕方の無い事だったのだと納得して噛み砕いていくことしか出来ない。
だって、そうしなければ彼女のいない未来を生きていくことがとても難しいのだ。
何分?何時間?経ったのか分からないけれど火葬担当の方が部屋に来て桜の火葬が無事に終わったことを伝えられた。
僕とおばさんは2人だけでお骨上げをした。
おばさんは虚ろな目からぽろぽろとまた涙を流しながら震える手で桜の骨を壺に入れていく。
僕はやっぱり桜のこの姿を見ても頭の中にモヤがかかったように飲み込むことが出来なかった。
担当の方の支持を受けながらお骨上げを進めていく。
桜は骨になっても真っ白なのだと、ふと思った。
陶器の様に白い肌に赤みが指すととても可愛らしかった。何処までも純粋で、おとぎ話のお姫様に憧れている様な乙女チックな彼女が好きだった。
1度も染められたことの無い艶やかな黒髪も少し色素の薄い茶色の瞳も何もかも彼女の物だったから愛しく思える。
けれど、もうそれにすら触れられないのだ。
「では最後に喉仏のお骨をお入れ下さい。」
僕はそっと腕を下ろす。
それを見ておばさんが桜の喉仏の骨を壺に納めた。
さよならと心の中で言いかけて、僕はその言葉を桜が嫌っていたことを思い出した。
彼女に出会ってすぐの頃、さよならと何気なく言ったら桜は少しだけ困った顔をしてその言葉はあまり好きじゃないのだと僕に言った。
さよならと言われると寂しくなるのだと、幼い頃に父親が亡くなって本当のさよならを経験した桜はそれがとても寂しいものなのだと理解させられたから、だから、ばいばいもさよならもあまり好きではないのだと悲しそうにそう教えてくれた。
僕はおもむろに桜の入った壺に触れた。
そして目を閉じて小さな声で、またねと挨拶をした。
僕がいつか桜と同じ様に心臓を止めて呼吸が止まって身体の全機能が停止した時、また来世で彼女に会えるように。
おばさんは顔を手で覆ってやっぱり泣いていた。
僕がいつも抱きしめていた僕の中にすっぽりと収まる小さな彼女は両の掌で支えられるほど更に小さく小さくなって僕に抱きしめられていた。