時の欠片
火葬が終わり、納骨も終えて落ち着いてきた頃、僕は何事も無かったようにいつもの日常を過ごし始めた。
親から受け継いだ花屋を開店する。
何時もの日常だ。
僕の住んでいる地域に花屋が少ないこともあって結構儲かっていたりするが、1人で切り盛りするのは結構大変だ。
「いらっしゃいませ。」
仕事柄身についた営業スマイルでお客さんに挨拶をする。
そうしたら聞き覚えのあるヒール音を鳴らしながらお客の女性がカウンターまで近づいてきた。
「なにがいらっしゃいませ、よっ、、!!!」
だんっと音がするくらい強くカウンターに拳を振り下ろした彼女は今にも泣きそうな叫びだしそうな顔で僕を睨んでいる。
「…美歩さん、、。」
派手な見た目の彼女は桜の親友で、彼女もまたこないだ迄は桜とこれからも歳を取るまで仲良くしていくのだと疑いもしていなかった人の1人だった。
「なんでそんなに平気そうな顔してるの。」
「…別に、そんなつもりありません…。」
「だったらっ、涙の1つくらい見せたらいいじゃない!!!当たり前にお店開いて営業スマイルなんかして、理解できない!!」
「…理解なんてして貰わなくて構いません。美歩さんにも…、秋月さんにもです。」
ふいっと彼女から顔を逸らすと視界の端で彼女が今にも泣きながら怒り出しそうな顔をしているのが見えた。
けれど僕はそれを見ないふりをした。
「…桜がかわいそうじゃない。」
「……。」
「田中くんがそうやって桜のことが目を逸らして平気なフリしてるのを桜が喜ぶと思うの…。」
突然飛び込んできた彼女はきっと僕の様子を気にかけてくれたんだと思う。
僕は自分で思う程強い人間ではないから、だから悲しんで立ち直れなくなっているんじゃないかと思って美歩さんは僕の店に立ち寄ってくれたんだ。
「倖も田中くんの同じ様に泣かないの…。辛いくせに泣かないの。どうしてって聞いたら泣けないんだって…桜が居なくなったことを認めたくない、泣いたら認めて受け止めなくちゃいけなくなるから泣けないんだって。」
「……美歩さん…。」
ぐすっと鼻の鳴る音が聞こえた。
両の腕で涙を拭き取りながら美歩さんは泣いていた。
僕はそんな彼女の横を通り過ぎて店の扉に掛かっているOPENと書かれたプレートを裏返してCLOSEに変えた。
「っ、私だけが幸せなの…私と倖は結婚して私のお腹の中には赤ちゃんが居て、でも桜はっ…やっと掴みかけた幸せなのに…それなのに…。」
桜が亡くなってから僕の周りには雨ばかりが降っている。その雨は止むことはなくずっとずっと僕の中でも周りでも涙となって降り続けている。
でも、僕は涙を流せなかった。
代わりに美歩さんやおばさんが沢山の雨を降らしてくれている。
それでも、一向に止まない。
「…ごめんなさい…。守れなくて。」
ポツリとそんな言葉が口から盛れた。
美歩さんはその言葉を聞いて顔を上げた。
そしてまたぐにゃりと顔を歪ませてぼろぼろと涙を流した。
「なんで謝るのよおおお……。」
お店の中に彼女のなく声だけが響いている。
バッチリと決まっていた化粧は今では剥がれ落ちて涙が黒く変色していた。
それでも僕はそれに嫌悪感は感じなかった。むしろ綺麗だとすら思った。
彼女のことを思って流れるその涙には1ミリの穢れすらも見当たらない。
「桜のことが好きでした…。この世の誰よりも愛しています。大切な大切な宝物です。それは今もこれからも代わりはしません。」
「っ、ばがああ…だったら泣きなさいよっ、、うっ、なんで、なんで……桜あ…。」
桜という太陽は何時も僕達を照らしていた。
桜は特別な何かに秀でていた訳でもなければ、凄くいい人というわけでもなかった。
それでも彼女は太陽だった。
彼女を中心にいつだって僕達は笑顔だった。
喧嘩してもすれ違っても
いつだって彼女といれば正しいと思える方向に進めていた。
僕達は桜のことが大好きだった。
親から受け継いだ花屋を開店する。
何時もの日常だ。
僕の住んでいる地域に花屋が少ないこともあって結構儲かっていたりするが、1人で切り盛りするのは結構大変だ。
「いらっしゃいませ。」
仕事柄身についた営業スマイルでお客さんに挨拶をする。
そうしたら聞き覚えのあるヒール音を鳴らしながらお客の女性がカウンターまで近づいてきた。
「なにがいらっしゃいませ、よっ、、!!!」
だんっと音がするくらい強くカウンターに拳を振り下ろした彼女は今にも泣きそうな叫びだしそうな顔で僕を睨んでいる。
「…美歩さん、、。」
派手な見た目の彼女は桜の親友で、彼女もまたこないだ迄は桜とこれからも歳を取るまで仲良くしていくのだと疑いもしていなかった人の1人だった。
「なんでそんなに平気そうな顔してるの。」
「…別に、そんなつもりありません…。」
「だったらっ、涙の1つくらい見せたらいいじゃない!!!当たり前にお店開いて営業スマイルなんかして、理解できない!!」
「…理解なんてして貰わなくて構いません。美歩さんにも…、秋月さんにもです。」
ふいっと彼女から顔を逸らすと視界の端で彼女が今にも泣きながら怒り出しそうな顔をしているのが見えた。
けれど僕はそれを見ないふりをした。
「…桜がかわいそうじゃない。」
「……。」
「田中くんがそうやって桜のことが目を逸らして平気なフリしてるのを桜が喜ぶと思うの…。」
突然飛び込んできた彼女はきっと僕の様子を気にかけてくれたんだと思う。
僕は自分で思う程強い人間ではないから、だから悲しんで立ち直れなくなっているんじゃないかと思って美歩さんは僕の店に立ち寄ってくれたんだ。
「倖も田中くんの同じ様に泣かないの…。辛いくせに泣かないの。どうしてって聞いたら泣けないんだって…桜が居なくなったことを認めたくない、泣いたら認めて受け止めなくちゃいけなくなるから泣けないんだって。」
「……美歩さん…。」
ぐすっと鼻の鳴る音が聞こえた。
両の腕で涙を拭き取りながら美歩さんは泣いていた。
僕はそんな彼女の横を通り過ぎて店の扉に掛かっているOPENと書かれたプレートを裏返してCLOSEに変えた。
「っ、私だけが幸せなの…私と倖は結婚して私のお腹の中には赤ちゃんが居て、でも桜はっ…やっと掴みかけた幸せなのに…それなのに…。」
桜が亡くなってから僕の周りには雨ばかりが降っている。その雨は止むことはなくずっとずっと僕の中でも周りでも涙となって降り続けている。
でも、僕は涙を流せなかった。
代わりに美歩さんやおばさんが沢山の雨を降らしてくれている。
それでも、一向に止まない。
「…ごめんなさい…。守れなくて。」
ポツリとそんな言葉が口から盛れた。
美歩さんはその言葉を聞いて顔を上げた。
そしてまたぐにゃりと顔を歪ませてぼろぼろと涙を流した。
「なんで謝るのよおおお……。」
お店の中に彼女のなく声だけが響いている。
バッチリと決まっていた化粧は今では剥がれ落ちて涙が黒く変色していた。
それでも僕はそれに嫌悪感は感じなかった。むしろ綺麗だとすら思った。
彼女のことを思って流れるその涙には1ミリの穢れすらも見当たらない。
「桜のことが好きでした…。この世の誰よりも愛しています。大切な大切な宝物です。それは今もこれからも代わりはしません。」
「っ、ばがああ…だったら泣きなさいよっ、、うっ、なんで、なんで……桜あ…。」
桜という太陽は何時も僕達を照らしていた。
桜は特別な何かに秀でていた訳でもなければ、凄くいい人というわけでもなかった。
それでも彼女は太陽だった。
彼女を中心にいつだって僕達は笑顔だった。
喧嘩してもすれ違っても
いつだって彼女といれば正しいと思える方向に進めていた。
僕達は桜のことが大好きだった。