突然ですが、兄貴が出来ました!
俺は自分の気持ちを認めたくなくて、この日を境に翔さんを避けるようになった。
でも、心は翔さんに会いたくて…。
蒼ちゃんの家は俺が住むマンションの真向いなので、金曜日になるとベランダから蒼ちゃんの家に入る翔さんの姿を眺めるようになった。一度、翔さんが視線を俺の家に向けてくれて、目が合った……ような気がした。
慌ててカーテンを閉めたけど、高鳴る胸の鼓動が認めたくない気持ちを認めろと言っているようで辛かった。
何度か章三の部活が遅くなり一緒に帰れない時に、翔さんが校門の前で待っていてくれていた。
校門にもたれかかり、夕日に照らされた翔さんの横顔を見る度に胸が軋んだ。
(しかも、学校の女子が翔さんが来るとキャーキャー騒いでいたっけ·····)
俺を見つけると、翔さんはいつも優しい笑顔を浮かべてくれる。
「葵君、お疲れ様」
ふわりと頭を撫でる手が、蒼ちゃんとは違う男らしい手。
手の平は剣道の竹刀を握っているせいなのか、固くてゴツゴツしている。
父親を知らない俺には、男性の大きな手がこんなにも優しくて暖かなものだと教えてくれた人でもあった。
先輩の漆黒の瞳も、優しい笑顔も、広い胸も大きな手も·····全ては蒼ちゃんのモノだと分かっている。
分かっているのに、気持ちが溢れて止まらなくなる。泣きたくなる気持ちに蓋をして、俺はこの気持ちを決して口にしないと決めていた。
蒼ちゃんが選んだ人。
蒼ちゃんを選んだ人。
何で蒼ちゃんなんだろう?
綺麗で優しくて、俺の大好きで大切な人…なのに……
翔さんへの気持ちを持ち始めて頃から、蒼ちゃんへの気持ちも変化した。
時々、黒く醜い感情に息が出来なくなる。
出会わなければ良かったのかな?
そんな感情に支配されてもがき苦しんでいた頃
「あ~ちゃん、桐楠大付を受験してみない?」
何も知らない母さんがそう言って来た。
二人が通う学校…。
ぼんやり考えていた俺に
「神崎君とお母さんが出会った学校なのよ。行かなくても良いから、受験だけでもしてみない?」
母さんの笑顔にぼんやりと思い出す。
父さんと母さんが出会い、思いを通わせた学び舎。
桐楠大付には伝説がある。
裏庭に咲く白い梅の花の花びらが散る瞬間を見た二人は必ず結ばれる…。
「何で梅の花?桜じゃないの?」
そう訊ねた俺に
「馬鹿ね。桜の花が散るのはみんな見えるでしょう?梅の花はひっそり咲いてひっそり散るの。それを見た二人だから結ばれるの」
笑いながら母さんが答えたっけ…。
「じゃあ、母さんと父さんは見たの?」
俺の質問に母さんは満面の笑顔を浮かべて
「もちろん!だから決心したの。私は神崎君の赤ちゃんを産みたいって。神崎君がこの世に生まれ、生きた証を残したいって…」
親父の話をする母さんは、まるで女子高生のようになる。瞳を輝かせ、頬を赤らめて親父を語る。
「だから、あ~ちゃんは私の大切な宝なの」
俺を抱き締める母さんの口癖。
俺は二人が出会った学校を見てみたい気持ちになり、受験だけしようと決めたのだ。
桐楠大付は中途入学の枠が極めて少ないので、俺の凡人並みの頭では受かる筈が無いと思っていた。
でも、受験を決めてから、時間を見つけては蒼ちゃんが俺と章三の勉強を見てくれていた。
桐楠大付で常にトップの成績を取っている蒼ちゃんの授業は分かりやすくて、段々勉強が楽しくなって来た。なんでも、興味を持って理解すると楽しくなるんだってこの時に知ったんだよな…。
父さんと母さんが出会い、愛し合った学校。
そして蒼ちゃんと翔さんが通う学校…。
二人はその学校で出会い、白い梅の花が散るのを一緒に眺めたのだろうか?
少しでもぼんやりすると考えてしまうので、忘れようと必死に勉強した。
自分の気持ちをかき消す為の勉強だったのに、成績はぐんぐん伸びて行き桐楠大付が合格圏内になっていた。
でも、心は翔さんに会いたくて…。
蒼ちゃんの家は俺が住むマンションの真向いなので、金曜日になるとベランダから蒼ちゃんの家に入る翔さんの姿を眺めるようになった。一度、翔さんが視線を俺の家に向けてくれて、目が合った……ような気がした。
慌ててカーテンを閉めたけど、高鳴る胸の鼓動が認めたくない気持ちを認めろと言っているようで辛かった。
何度か章三の部活が遅くなり一緒に帰れない時に、翔さんが校門の前で待っていてくれていた。
校門にもたれかかり、夕日に照らされた翔さんの横顔を見る度に胸が軋んだ。
(しかも、学校の女子が翔さんが来るとキャーキャー騒いでいたっけ·····)
俺を見つけると、翔さんはいつも優しい笑顔を浮かべてくれる。
「葵君、お疲れ様」
ふわりと頭を撫でる手が、蒼ちゃんとは違う男らしい手。
手の平は剣道の竹刀を握っているせいなのか、固くてゴツゴツしている。
父親を知らない俺には、男性の大きな手がこんなにも優しくて暖かなものだと教えてくれた人でもあった。
先輩の漆黒の瞳も、優しい笑顔も、広い胸も大きな手も·····全ては蒼ちゃんのモノだと分かっている。
分かっているのに、気持ちが溢れて止まらなくなる。泣きたくなる気持ちに蓋をして、俺はこの気持ちを決して口にしないと決めていた。
蒼ちゃんが選んだ人。
蒼ちゃんを選んだ人。
何で蒼ちゃんなんだろう?
綺麗で優しくて、俺の大好きで大切な人…なのに……
翔さんへの気持ちを持ち始めて頃から、蒼ちゃんへの気持ちも変化した。
時々、黒く醜い感情に息が出来なくなる。
出会わなければ良かったのかな?
そんな感情に支配されてもがき苦しんでいた頃
「あ~ちゃん、桐楠大付を受験してみない?」
何も知らない母さんがそう言って来た。
二人が通う学校…。
ぼんやり考えていた俺に
「神崎君とお母さんが出会った学校なのよ。行かなくても良いから、受験だけでもしてみない?」
母さんの笑顔にぼんやりと思い出す。
父さんと母さんが出会い、思いを通わせた学び舎。
桐楠大付には伝説がある。
裏庭に咲く白い梅の花の花びらが散る瞬間を見た二人は必ず結ばれる…。
「何で梅の花?桜じゃないの?」
そう訊ねた俺に
「馬鹿ね。桜の花が散るのはみんな見えるでしょう?梅の花はひっそり咲いてひっそり散るの。それを見た二人だから結ばれるの」
笑いながら母さんが答えたっけ…。
「じゃあ、母さんと父さんは見たの?」
俺の質問に母さんは満面の笑顔を浮かべて
「もちろん!だから決心したの。私は神崎君の赤ちゃんを産みたいって。神崎君がこの世に生まれ、生きた証を残したいって…」
親父の話をする母さんは、まるで女子高生のようになる。瞳を輝かせ、頬を赤らめて親父を語る。
「だから、あ~ちゃんは私の大切な宝なの」
俺を抱き締める母さんの口癖。
俺は二人が出会った学校を見てみたい気持ちになり、受験だけしようと決めたのだ。
桐楠大付は中途入学の枠が極めて少ないので、俺の凡人並みの頭では受かる筈が無いと思っていた。
でも、受験を決めてから、時間を見つけては蒼ちゃんが俺と章三の勉強を見てくれていた。
桐楠大付で常にトップの成績を取っている蒼ちゃんの授業は分かりやすくて、段々勉強が楽しくなって来た。なんでも、興味を持って理解すると楽しくなるんだってこの時に知ったんだよな…。
父さんと母さんが出会い、愛し合った学校。
そして蒼ちゃんと翔さんが通う学校…。
二人はその学校で出会い、白い梅の花が散るのを一緒に眺めたのだろうか?
少しでもぼんやりすると考えてしまうので、忘れようと必死に勉強した。
自分の気持ちをかき消す為の勉強だったのに、成績はぐんぐん伸びて行き桐楠大付が合格圏内になっていた。