ヴァンパイア夜曲
ばっ!とランディを見るが、彼はそもそもこっちを見ていなかったらしい。言わずもがな、街行く美女に夢中だ。
ーー今、初めてシドが笑ったような気がした。
からかうような表情で見下した笑いを浮かべることはたまにあったが、今のは確実に緩んだ微笑みだ。
わずかに口角が上がった程度だが、無愛想でクールな顔しかしないシドばかりを見てきた私からすれば、写真に何枚納めても足りないくらいの貴重な瞬間なのである。
ーーそれに、シドはカナリックを出てから少し変わった。
今までは仕方なく私の旅に同行しているような仕草を見せることが多く、どこか一線を引くような態度でいたが、最近はなんとなく“スキンシップ”が増えたような気がする。
血をもらう時だってそうだ。
体重を預けてもビクともしないシドの体。私を支える腕は力強くもどこか優しくて、温かい。
私を抱き上げるシドは、時よりゆるゆると私の頭を撫でることがあるが、あれは無意識なのだろうか。
ペットに餌をやっているような…?
彼からしてみればそんな感じなのかもしれない。
…たまに背中へと下りたシドの腕が腰を抱こうとすることがあるが、彼は、はっ、としたようにすぐ手を離す。一応、気を遣われているらしい。
別に、こちらは女として見られていないことなんて十分わかっているのに。
「おい、何やってんだ。置いてくぞ。」
いつもの殺し屋モードに変わったシドの低い声。
はっ!として我に返った私は、急いで二人の背中を追いかけたのだった。