ヴァンパイア夜曲
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「すみません、お客様。本日、お部屋が2部屋しか空いていなくて…」
宿屋のフロントで、従業員の男性が申し訳なさそうにそう告げた。
苦渋の決断をするように、シドが低く唸る。
「…仕方ねえ。一人部屋はレイシアだな。ランディ、お前は床で寝ろ。」
「あのさ、シド。平等にジャンケンしようよ。独裁政治は不幸の始まりだよ?」
ぶーぶー言いながら鍵を受け取るランディをよそに、シドは、ふと何かに気がついたようにそっ、と私に歩み寄る。
「ーーレイシア。今夜、お前の部屋に行っていいか。」
「えっ?!」
「そろそろ、“サイクル”だろ?」
彼は、私の吸血欲が高まる周期を気にしてそう言ってくれたらしい。
不埒な考えが一瞬頭をよぎった自分を殴りたい。
「あぁ、ありがと。…それなら、ご飯を食べた後とかに……」
その時、ふっ、とカナリックでの記憶が蘇った。
宿屋での朝、至近距離で映ったシドの無防備な姿がフラッシュバックする。
(!私は、何を思い出して…!)
私はシドの体を見たってなんとも思わなかったのに、最近は綺麗な首筋や鍛えられた胸板を見るたびにドキドキしてしまう。
もともと、シドは“美青年”の部類だし、街を歩けば女性が振り返ることも多々あったが…
最近はなんだか、妙に“男っぽい”というか…
気だるそうな彼の“色気”がダダ漏れで、目のやり場に困る。
「…や、やっぱり、いい。」
「は?」
「大丈夫…!欲しくなったら私から言うから!」
つい、ぱっ!と彼から視線を背けて歩き出す。
引き止めるような声が聞こえるが、思わず赤くなってしまった頰を見せるわけにはいかない。
(私って、まさか“変態”…?)
ぶっ飛んだ結論に至ったことにも気づかない私は、顔を見合わせるシドとランディを振り返ることなく、与えられた自室へと駆け込んだのだった。