ヴァンパイア夜曲
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ーーカポーン。
“男湯”の暖簾。
ししおどしの軽やかな音。
湯けむりの立ち込める温泉はほとんど貸切のような状態で、深夜に入る客はほぼいないようだ。
風情のある露天風呂は有名なだけあって眺めも良い。本当にこんなに効くのか?と思ってしまうほどの大量の効能に、シドは目を細めていた。
「ーー隣、いいかな?」
声をかけてきたのはランディである。
ゆっくりとお湯に浸かった銀髪の彼は、ふぅ、と息を吐いて岩に寄りかかった。
「はー、気持ちいいね。さすが源泉。この後柔らかいベッドで寝れると思うと、最高の気分だよ。」
「お前が寝た後、引きずりおろしてやるからな。…俺は一生チョキは出さねえ。」
恨みのこもったようなシドの声にくすくす笑ったランディは、今夜のベッドを勝ち取った喜びでいっぱいのようだ。
一方、岩に体を預けたシドは、ジッとランディを睨んでいる。
その時、ふと何かに目を止めたランディがぽつり、と口を開いた。
「…“それ”、彼女につけられたのかい?」
「!」
ランディが指したのは、シドの首筋に残る“噛み跡”だった。
ぱちゃん、とお湯から腕を上げ、そっと自身の首を撫でたシドは小さく息を吐く。