ヴァンパイア夜曲
クールで硬派なシドが、レイシアのことになるとIQがゼロになるとランディが知ったのはつい最近のことだ。
ギロリ、と睨むシドに、ランディは「ごめんごめん」と苦笑すると、腕組みをして静かに呟く。
「きっと、何か“理由”があると思うよ。」
「?」
「まぁ、頑張りなよ。女心は難しいからね。」
“女心を察する”などという技は、シドとは無縁の言葉であった。そういうことになにかと目ざといランディも、面白がってアドバイスする気もないらしい。
ザバ…、と早めに上がったランディは、ひらひらとシドに手を振って歩き出した。
「…!ランディ。」
ふと、彼を呼び止めるシド。
くるりと振り返ったランディの視線の先に見えたその表情は、先ほどのシドとは別人のように鋭い。
「ーー明日、レイシアのことを頼むな。俺は少し一人で出てくる。」
「え?」
「“兄貴探し”をする前に、会っておきたい“男”がいるんだ。」
その時。
シドの脳裏をよぎっていたのは、カナリックの地下水路で出会った“ピアスの青年”の姿であった。