ヴァンパイア夜曲

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「…近くで見ると、随分デケェな…」


翌日。

麗らかな昼下がり、シドは真っ黒なコートを羽織り、“ノスフェラトゥ”の本部の前にいた。

きょろり、と辺りを見回すと、衛兵や防犯カメラはないらしい。

そんなものがなくても、部外者を簡単に捻り潰すことができる実力を持った精鋭が集まっているというのだろうか。


(…単に人員不足なだけかもしれねえが…)


しかし、いくら見張りがいないからといって、門から堂々と入るのは少し厳しい。

トッ、と身軽に近くの木へ登ったシドは、そのまま本部を囲む高い塀の上へと着地する。


ーータン。


静かに敷地内へ舞い降りたシド。暗殺業で鍛えた身のこなしは、潜入調査でも生かすことができるようだ。

本来は黒コートで闇夜に紛れていきたいところだが、夜間に活発になるヴァンパイアの本部となればそうはいかない。塀へ着地した瞬間、夜目が利く奴らに見つかって終わりだろう。


ーーコツ…


一歩建物へと足を踏み入れると、そこはまるで“要塞”だった。

灰色のコンクリートの壁に、廊下に並ぶいくつもの扉。“日光慣れ”をするためなのか窓からはちゃんと光が差し込んでいるが、どことなく人間の世界とは違う雰囲気が漂っている。

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