ヴァンパイア夜曲
(…やけに静かだな。昼間は寝てんのか…?)
ふとそんなことを思いながら旅仲間の二人を思い浮かべるが、ヴァンパイアたちは昼にずっと棺桶に入っているというわけではない。
単に今はパトロールや任務などで団員が外に出払っているのだろうか。
…と、シドが眉を寄せた
その時だった。
「ーー動くな。」
「!」
一瞬の隙を突かれた。
背後から突き立てられたのは、“鋭い短剣”。
シドの視界に映ったのは、短剣を首元に当てる“華奢な腕”だった。
「ーーここは、ノスフェラトゥの宿舎。“許された人間以外は立ち入り禁止”よ。…餌にされたくなかったら、大人しくここから出て行きなさい。」
凛とした女性の声。
背後を取る彼女は一部の隙もない。さすがノスフェラトゥの団員、といったところか。
「…短剣を下ろしてくれないか。俺は、“ある男”に会いに来たんだ。」
「…!」
すっ、とシドが胸ポケットから出したのは、“片耳のピアス”。それは、本部の至る所に飾られた“ノスフェラトゥの象徴”と同じ紋章が刻まれていた。
背後から、はっ、と彼女が息を呑む声が聞こえる。
「ーー俺は、このピアスの持ち主に会いに来た。…知っているなら、こいつの居場所を教えて欲しい。」
ーーすっ。
シドの言葉に、彼女の警戒が解かれた。
くるりと後ろを振り向くと、そこには綺麗な薔薇色の髪の女性が立っている。その瞳は、驚きでまん丸だ。
「…貴方、“団長”の知り合いなの?」
そんな彼女の問いかけに、シドはわずかに口角を上げたのだった。