ヴァンパイア夜曲
ーーコツ…、コツ…
ゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れると中は割と広く、浴室やトイレまで付いていた。
どうやら、廊下の突き当たりにあるのは“寝室”らしい。
まさか、棺桶じゃねえだろうな…、なんてヴァンパイアに抱くイメージを元に人間の脳みそをフル回転させていたその時。
ふわり、と部屋の奥から“ある香り”が漂った。
シドは、はっ、と足を止める。
(…“血”の、匂い…?)
足音を忍ばせるシド。
わずかに開いた扉から、息を殺してそっ、と中を覗き込む。
ーーするとその先に見えたのは、“深紅”に染まったヴァンパイアの瞳だった。
「…っ、ぁ……、んっ……」
女性の首筋に牙を突き立てる青年。時より吐息をこぼす彼女は、ぎゅう、と青年に抱きついている。
探し人は確かに部屋にいた。しかし、それは紛れもない“吸血中のヴァンパイア”だ。
普段、スティグマに襲われることばかりで忘れかけていたが、ヴァンパイアとは本来こういうもの。
レイシアに血を渡している場面もこんな風に見えるのか、なんて、つい想像してしまう。
ーーその光景はまるで一枚の絵のように美しく、それでいて彼は容赦のない獰猛な狼のようで。
わずかに部屋の窓から差し込む日の光が、その妖麗さを際立たせているようだった。