ヴァンパイア夜曲
ーーぱちっ。
思わずその光景に見惚れていたその時。ふっ、と深紅の瞳がこちらへ向けられた。
思わぬ形で交わる視線。
どきり、と心臓が鈍く音を立てる。
「…っ、!」
思わず動揺してしまったシドに、青年もぴくり、と肩を震わせた。どうやら、吸血に夢中で来客に気がつかなかったらしい。
ーーちゅ…
女性の首筋に軽くキスを落とした青年は、長いまつ毛を静かに伏せて、そっと告げる。
「ーーごめん、俺に“来客”みたい。」
すっ、と顔を上げた彼女に、ふわり、とショールをかける青年。はだけた胸元を隠すように、彼はそのまま優しく肩を抱いた。
「…ありがとう。続きはまた今度。」
「はい…」
わずかに顔を赤らめて俯いた彼女は、結構美人だ。タタタ…、とこちらへ駆けてきた彼女は、シドにぺこり、とお辞儀をして部屋を出て行く。
まずいところに出くわしてしまった…、と内心焦るシドだが、青年は何事もなかったかのように唇の血をぺろり、と舐めた。
「……悪い、邪魔したか。」
低く声をかけるシドに、ちらり、とこちらを見上げた彼は、ふっ、と微笑んで穏やかに告げる。
「ーーいいや?もうだいぶ満たされたところだったからね。」