ヴァンパイア夜曲
その時。
ルヴァーノの艶のある声が部屋に響いた。
「…で?グリムリーパーの君がなぜホームから離れたこの土地に?…わざわざ俺を追いかけて来たわけじゃないだろう?」
本題へ入るかのようにそう告げたルヴァーノ。
立場は違えど、スティグマを狩る目的を同じとした者同士、“情報交換”といったところだろう。
シドは、彼を見つめて静かに答える。
「俺は本部からの命を受け、“ある事件”の調査をしているんだ。」
「“事件”?」
「あぁ。たぶん、知っているだろうが…。10年前に起きた、“薔薇の廃城”という……」
と、その瞬間。ルヴァーノの顔つきが一変した。
フッ、と深紅に染まる瞳。
まるで、反射的に気持ちが高ぶったかのように、言葉では言い表せないほどの深い感情が渦巻いているような深い色。
一瞬で纏う空気が変わった彼に動揺する。
「ルヴァーノ…?」
ぽつり、とシドが彼の名を呼ぶと、青年はわずかにまつ毛を伏せ、「…はっ。」と小さく笑った。
「…いや、悪い。まさか君の口から悪夢のようなその名を聞くとは思わなくてね。……気にしないでくれ。俺のプライベートの領域だから。」
それ以上聞くな、と言わんばかりの彼の無言の圧力に、つい押し黙るシド。
落ち着けるように息を吐いた彼をじっ、と見つめていると、ルヴァーノがすっ、と足を組んで口を開いた。
「…シド。君は、カナリックの街で“ローガス”という男を見たか?」
(…!)