ヴァンパイア夜曲


“薔薇の廃城”の主犯であり、ベイリーン家の当主ゴードルフをスティグマに変えた張本人。

その男の名前を聞き、シドはわずかに目を細めて問いに答える。


「…俺の“連れ”が、ゴードルフを襲って屋敷から飛び立つローガスを見たと言っていた。…直接対峙したことはない。」


すると、ルヴァーノは真剣な瞳で腕を組んだ。


「…俺もあの夜、ローガスを追ってカナリックの街に出向いたんだ。ローガスは、ノスフェラトゥが定めた執行対象だからな。」


「執行対象…?」


「あぁ。善良なヴァンパイアを吸血しスティグマに変えることは、ヴァンパイア界で禁忌とされている。…あの男は、この世に野放しにしてはならない存在なんだ。」


幹部の顔をして低く言い切ったルヴァーノ。

その語気には底知れない感情が見え隠れしているような気がしたが、シドは深く追求しなかった。


「…どうやら、ローガスの居城はここよりさらに東の国境にあるらしいが、いかんせんあの地域は濃霧に包まれていてな。なかなか詳しい情報が掴めないんだ。…本音はさっさと奇襲をかけて、本拠地をぶっ叩きたいところなんだが。」


ルヴァーノは、さらり、とそう呟いてため息をつく。

国の各地から力のあるヴァンパイアを集めたノスフェラトゥといえどローガスは案外隙のない男のようで、彼らは攻めあぐねているらしい。


ーーしかし、ノスフェラトゥに任せきりにするわけにはいかない。

ヴァンパイア界の話ではなくとも、スティグマを生み出して国の平穏を脅かすローガスはグリムリーパーにとっても脅威であり、薔薇の廃城の調査を命じられたシドは、ローガスの始末を託されたと言っても過言ではないのだ。


(…くそ。…また面倒なことに…)

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