ヴァンパイア夜曲
思わず顔をしかめたその時。ふと時計を見たルヴァーノは、すっ、と、席を立つ。
「…あ、まずい。そろそろ、午後の巡回の時間だ。悪いけど、話はここまでにしよう。…仕事に戻らないとエリザに叱られるんだ。」
この軍の上下関係はどうなっているのだろう。
どうやら、彼の右腕らしい女性団員が、乱れがちな上司の職務を監視しているようだ。ふっ、と苦笑する幹部は、普段から彼女に叱られるような自由行動を取りがちらしい。
部屋の出口まで見送りに出たルヴァーノは、シドに向かって小さく口角を上げた。
「また、いつでもおいでよ。これは俺の勘だけど、君とはこの先も付き合っていくような気がするんだ。…偶然の出会いは、必然である“神のお導き”だからね。」
(…!)
思わず目を見開き、そして、ふっ、と頰を緩めたシド。きょとん、と瞬きをするルヴァーノは、目を細めて玄関に寄りかかる。
「ん?俺、何か変なこと言った?」
「…いーや。“神のお導き”とか言う奴が、俺の側にもいるなと思って。」
「ふぅん?」
さほど興味がなさそうに相槌を打ったルヴァーノ。さらり、と彼のブロンドの髪がなびいた。
と、その時。シドは、ふとあることを思い出して、はっ、とする。
「なぁ、最後に一つ聞いていいか?」
「ん?」
首を傾げたルヴァーノに、シドは少し躊躇しながら、ぽつり、と尋ねる。
「…っあー…その……、ヴァンパイアが急に血を飲まなくなった理由って…、何か思い当たるか?」
「?」