ヴァンパイア夜曲

予想外の質問にぱちり、とまばたきをするルヴァーノ。腕を組んだ彼は、思案するように数回顎を撫で、そして吐息交じりにさらりと答えた。


「んー…、一概には言えないけど。俺なら、“血が不味い”と飲む気は失せるね。」


「!!!!」


ドン!と鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

思わず、がばっ!とルヴァーノの肩を掴んだシドに、彼はびくりと震える。


「ま、不味い?今まで飲んでたのにか?」


「そりゃ、どんなヴァンパイアにも好みはあるからね。健康状態で血の味が変わったりもするみたいだけど。…何?君、囲ってるヴァンパイアでもいるの?」


はぁ、と肩を落とすシド。

脳裏をよぎるのは、宿で自分の帰りを待っているであろうレイシアの姿だった。


(…あいつ、一丁前に俺の血の味に文句つけるようになりやがって…!)


シドが行き着いた答えがレイシアの真意と反していることなど露知らず、シドは、はぁ、と髪をかきあげてため息をつく。

なぜ、自分がショックを受けているのか。なぜ、彼女が血を欲しがらなくなって苛だたしいのか。それすらピンとこない。

しかし、シドは、彼女が自分から少しずつ離れていくようで、なぜかモヤモヤしてしまうのだった。


「…俺の血は…不味いのか…?」


「そんな悲しそうな目で見上げないでくれるかな?…悪いけど味見はしないよ。俺は女性にしか噛み付かないと決めているんだ。」


どこかの軟派執事のような発言をしたルヴァーノは、ひらり、と手を振ってシドを見送る。

ーーそして、パタン、と部屋の向こうに消えていった彼に背を向け、シドは心に負ったダメージを必死に隠しながら、一人、別館を出たのだった。

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