ヴァンパイア夜曲
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「…もう。シドってば、どこに行ったのかしら。」
一方その頃。
シドがノスフェラトゥに乗り込んでいることなど全く知らない私は、ランディとともにサザラントの街を歩いていた。
昼間の市街は昨夜よりも賑わいを見せており、大きな噴水のある広場は笑顔を浮かべる人々であふれている。
「大丈夫だよ、レイシアちゃん。シドは“男の人”を訪ねて出かけたみたいだから。」
「?」
「“浮気”の心配はないってこと。」
「!わ、私は別にそういうことを気にしたわけじゃ…!」
ニコニコとこちらを見るランディは、私の心を見透かしているようだ。
しかし、私は揺らいだりしない。シドが女の人と会ってようが、私には関係ないのだから。
(…それにしても、こんな遠くの街まで知り合いがいるなんてシドは顔が広いのね。)
…と、謎多き青年の姿を頭に思い浮かべたその時。はっ、としたランディがふと声を上げた。
「ん?あれって、シドじゃない?」
「え?」
遠くの木陰に見えたのは、真昼間の公園に似合わない“黒コート”。何やら大きい“紙袋”を持ってベンチに腰掛けているのは、紛れもなくシドである。
その手には、公園に出店しているキャンピングカーのロゴが入ったドリンク。
私は、ふっ、と眉を寄せる。
「…あの男、私たちに内緒で美味しそうなもの買ってるわ。」
「レイシアちゃん。目が怖いよ。」