ヴァンパイア夜曲
「…何だよ。」
つい、シドをガン見していると、顔をしかめた彼が、はぁ、とため息をついた。
すっ、と差し出されるカップ。
ぱちり、と目を丸くすると、いかにも気分が悪そうな彼が低く唸る。
「…やる。」
「えっ!」
「……甘すぎだ。こんなの飲んでたら溶ける。」
実は甘いものが好きなんじゃなかったの?と、そう問いかけなくとも、彼の不快な表情で分かる。
まるで、“無理をして飲んでいた”ような感じだ。
変なの。
旅を始めてから結構経つが、やはりまだこの男はよく分からない。
「これ、本当にくれるの?」
「…あぁ。…チッ、口の中がくそ甘え。」
「やった!美味しそう…!!」
舌をだして顔をしかめる彼は、ランディに「ブラックコーヒー。」としきりに言っている。「言葉足らずだよ!ちゃんと“買ってきてください”って頼んで!」と苦笑して叱っているランディは、パシリにされる未来が見えたようだ。
しかし、そんな二人の会話を横目にストローへ口をつけようとした、その時。
私はぴたり、と動きを止めた。
(これは“間接キス”?)
「や、やっぱりいらない!!シド、飲んで!」
「は?」
脳裏をよぎった6文字に、ドッ!と全身の体温が上がる。
思わず突き返したカップに、シドが驚いたように目を見開く。
しかし、彼はすぐ何かに気がついたように、はっ!として声を上げた。
「これはちゃんとお前の好きな味だから大人しく飲んどけ!」
「え?どういうこと?」
「…っ!深く聞くな、バカ!」