ヴァンパイア夜曲


「…何だよ。」


つい、シドをガン見していると、顔をしかめた彼が、はぁ、とため息をついた。

すっ、と差し出されるカップ。

ぱちり、と目を丸くすると、いかにも気分が悪そうな彼が低く唸る。


「…やる。」


「えっ!」


「……甘すぎだ。こんなの飲んでたら溶ける。」


実は甘いものが好きなんじゃなかったの?と、そう問いかけなくとも、彼の不快な表情で分かる。

まるで、“無理をして飲んでいた”ような感じだ。

変なの。

旅を始めてから結構経つが、やはりまだこの男はよく分からない。


「これ、本当にくれるの?」


「…あぁ。…チッ、口の中がくそ甘え。」


「やった!美味しそう…!!」


舌をだして顔をしかめる彼は、ランディに「ブラックコーヒー。」としきりに言っている。「言葉足らずだよ!ちゃんと“買ってきてください”って頼んで!」と苦笑して叱っているランディは、パシリにされる未来が見えたようだ。

しかし、そんな二人の会話を横目にストローへ口をつけようとした、その時。

私はぴたり、と動きを止めた。


(これは“間接キス”?)


「や、やっぱりいらない!!シド、飲んで!」


「は?」


脳裏をよぎった6文字に、ドッ!と全身の体温が上がる。

思わず突き返したカップに、シドが驚いたように目を見開く。

しかし、彼はすぐ何かに気がついたように、はっ!として声を上げた。


「これはちゃんとお前の好きな味だから大人しく飲んどけ!」


「え?どういうこと?」


「…っ!深く聞くな、バカ!」

< 123 / 257 >

この作品をシェア

pagetop