ヴァンパイア夜曲
その時、シドがふいっ、と兄を見上げた。
「…アンタは女の血を吸ってるくせに…」
「…レイシアに何か言ったら噛み殺すぞ…」
ぼそぼそと低く何かを言っている様子の兄とシド。
会話の内容を聞き取れない私が眉をひそめていると、コツコツ、と女性団員が私の側に歩み寄ってきた。
ぴくり、と人見知りを発揮した私に、彼女は優しく声をかける。
「…初めまして、私は団長の側近を務めています“エリザ”です。」
「あっ、ど、どうも…!うちの兄がいつもお世話になっております…!」
エリザと名乗る彼女は、キリッ、とした瞳をわずかに細めて深々と頭を下げる。彼女につられてお辞儀をすると、挨拶を終えたエリザは広場を見つめて小さく息を吐き、何やら揉めている兄に向かって大きく叫んだ。
「団長!妹の彼氏をいびっている場合ですか!職務中ですよ!」
「「彼氏じゃない!!」」
シドとルヴァーノの声が重なったその時、薔薇色の髪の彼女がさらりと言葉を続ける。
「分かりましたから、早く指揮をとってください!任務は終わっていません!スティグマを街に放ったという“男”がまだ…」
…と、彼女が言いかけた
次の瞬間だった。