ヴァンパイア夜曲
ーーザン!!
突然、“黒い影”が視界に映った。
ぐらり、と視界が傾き、エリザに抱きかかえられて空へ飛んだことを理解した瞬間、腕に感じたのは“鈍い痛み”。
地面に着地して視線を下ろすと、破れた袖からじんわりと血が滲むのが見えた。
「レイシア!!」
血相を変えたルヴァーノの叫び声。
私を庇ってくれたエリザも、私の傷を見て顔色を変える。
ーーその時。
広場に現れた“男”が、鋭い爪についた血をペロリ、と舐めてニヤリと不気味に微笑んだ。
『…“純血”の、味…』
ぞくり…!
禍々しいオーラを放つ男。
深紅に染まる瞳が、彼がヴァンパイアであることを告げている。
ーー雪のように白い髪に紫紺のローブ。
その姿に、ルヴァーノの低く憎悪にこもった声が響いた。
「ローガス…!!!」
(…!!)
男の名を聞いた途端、シドとランディの顔つきも変わる。
ーーそう。
この男こそ、ずっと兄が追い続けていた、一夜にして両親と故郷を奪った“薔薇の廃城”の首謀者だったのだ。
その男は想像よりも若く、微かに記憶に残る10年前の姿と何一つ変わっていない。
長い年月が経っているはずなのに兄より少し年上くらいに見え、ひどく不気味だ。