ヴァンパイア夜曲
一瞬でノスフェラトゥの幹部の顔に戻ったルヴァーノ。指示を飛ばされたエリザも素早く頷く。
「…ごめんなさい。貴方を守りきれなかった。」
「!いえ!謝らないでください…!!」
私の言葉にわずかにまつ毛を伏せた彼女は、そっ、と私の肩を撫で、ローガスを追う上司の元へ駆けて行った。
嵐のように去っていく彼らの背中が見えなくなった頃、ふっ!と体の力が抜ける。
「レイシア!」
「レイシアちゃん!」
恐怖のせいで乱れた呼吸。
駆け寄る二人が不安げに私を覗き込んだ。しゃがみこむ彼らの顔は真っ青だ。
そっ、とシドの手が背中をさする。
「…大丈夫か。…腕は?」
じんわりと血が滲む服。
しかし、幸いにも傷自体は浅いらしい。
「大丈夫、エリザさんが守ってくれたから…」
私の言葉に胸をなでおろす二人。
鞄に入れていたハンカチで私の腕を止血したランディは、真剣な表情のまま、すくっ、と立ち上がる。
「とりあえず、宿に戻って傷を手当てしよう。ノスフェラトゥが追っているといっても、ここにいるのは危険だからね。」
ふわり、と私を抱き上げるシド。
思ってもみなかった仕草に、っ!と息が止まる。
「し、シド…?!私、自分で歩ける…」
「怪我人は黙ってろ。」
低く私の言葉を制したシドは、そのまま静かに駆け出した。
彼はそれ以上何も言わないが、その表情はいつもより固い。
ーーそして、ベンチに置かれたままだった荷物を担いだランディとともに、私たちは広場を後にしたのだった。