ヴァンパイア夜曲
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ーー穏やかな月の光。
どうやら、都市は眠らないらしい。
ちらほら街に明かりが灯る午後11時。宿屋のベッドに腰掛けていた私は、コンコン、と扉を叩く音に振り返った。
ガチャ、と鍵を開けると、そこに立っていたのは黒いシャツを着こなしたシド。
「…少し、いいか。」
低く告げた彼を、おずおずと部屋の中に通す。
一応、気を使ってソファに腰をかけると、ドサ、と隣に座った彼は、無言で視線を伏せていた。
「…どうしたの?こんな時間に。」
沈黙に耐えかねそう尋ねると、シドはかすかに目を細める。
「…悪かった。」
(え…?)
思わず目を見開く私。シドは、私と視線を合わさずに言葉を続けた。
「…お前に、怪我をさせた。」
ぽつり、と聞こえたセリフ。少し元気がない。
あのシドが謝るなんて。
くすり、と微笑んだ私は、腕を見つめる彼へ穏やかに答える。
「大丈夫よ。血も止まったし、時間が経てば傷もなくなるわ。」
納得のいっていない様子のシド。
マーゴットに頼まれて渋々私の護衛を引き受けたと思っていたが、どうやら彼は、真剣に私を守りきれなかったことを悔いているらしい。
どういう気持ちの変化があったのかと思ったが、彼は元々義理堅い。基本は無愛想で他人と関わりを持たないようにするシドだが、一度彼のテリトリーに入れば、誰よりも大切にしてくれる。