ヴァンパイア夜曲
急に鋭くなったシドの瞳。
声色が違う。
それはいつもの不機嫌そうな唸りとも、殺し屋のようなドスのきいた声とも違った。
「…俺じゃダメなのかよ…」
「え?」
拗ねたようなセリフ。
まるで意味がわからない。どういうことだ?
思わず眉をひそめると、彼はしゅるり、と青いクロスタイを解いた。徐々に露わになる肌に、ぞくり、とする。
かぁっ!と赤く染まった頰を隠そうとするが、シドはぐいっ!と私の背中を抱きこんだ。
「逃げんな。」
「っ?!な、な、何?!」
「いいから黙って一回かじってみろ。“絶対甘くなってる”から。」
(え?)
はっ!とした。
その瞬間。昼間、ベンチに腰掛けていたシドの姿が脳裏をよぎる。
紙袋いっぱいに詰め込まれたチョコレート、クッキー、キャンディ。溶けそうなほど甘い、ホイップたっぷりのキャラメルフラペチーノ。
普段のシドだったら買うはずのないアレの意味にようやく気づく。
「シド…。まさか、自分の血を甘くしようとしてたの?」
「!」
ぱっ、と碧眼を見開くシド。
しかし、一瞬でムッとした表情になった彼は、低く答える。
「…お前の考えていることなんかお見通しだ。どうせ、“コイツの血は不味い”とでも思ってたんだろ…!」
「へっ?」
「全然俺に構わなくなりやがって…。急に吸血しなくなったら…ちょっと…気になるだろーが。」